世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】坂本貴志「ほんとうの定年後」

今年101冊目読了。リクルートワークス研究所研究員・アナリストの筆者が、「小さな仕事」が日本を救う、と提唱する一冊。


老後不安が蔓延している日本だが、本当にそうなのか?という疑問を実例とともに紐解いていくのは非常にわかりやすい。


筆者は、大枠として「定年後の仕事の実態を丹念に調べていくと浮かび上がってくるのは、定年後の『小さな仕事』を通じて豊かな暮らしを手に入れている人々の姿、さらには『小さな仕事』が必要不可欠なものとして人々の日々の暮らしの中に埋め込まれており、かつそれが日本経済を支えているという事実」という分析をしている。


定年後の仕事の事実として「①年収は300万円以下が大半②生活費は30万円弱まで低下※長年家計の悩みの種であった教育費から解放される③稼ぐべきは月60万円から月10万円に④減少する退職金、増加する早期退職⑤純貯蓄の中央値は1500万円⑥70歳男性就業率45.7%、働くことは当たり前⑦高齢化する企業、60代管理職はごく少数⑧多数派を占める非正規とフリーランス⑨厳しい50代の転職市場、転職しても賃金は減少⑩デスクワークから現場仕事へ(11)60代から能力の低下を認識する(12)負荷が下がり、ストレスから解放される(13)50代で就労観は一変する(14)6割が仕事に満足、幸せな定年後の生活(15)経済とは『小さな仕事』の積み重ね」という指摘は、実感はないものの、頭では理解できるものだ。


その理解を助けるのが、個別の解説。特になるほどと思ったのは「年金の受給年齢の繰り下げは短命に終わった場合は損につながる。しかし、公的年金もあくまで保険である以上、リスクを最小化し、高齢期に安心して暮らせるために、働けるうちは働いて年金は働けなくなったときのために残しておくという選択肢は積極的に検討してよい」「定年後に関しては、正規雇用が優れていて、そうでない就業形態が劣っているという認識は改める必要がある。仕事において成長を続けることは望ましいことだが何事もコストと便益の比較考量。定年後も成長し続けるキャリアを追い求め続ける働き方は、必ずしも職業人の至上命題とはならない」「高齢期に仕事に就けなくなるという問題は、事務職や専門・技術職の仕事が高齢期になくなってしまうという問題とほぼ同義」「生涯を続けて対人・対自己能力は伸びる。能力低下の主因は体力・気力」「定年後のキャリアにおいては、体力や気力の変化と向き合いながらも、いまある仕事に確かな価値があると感じたとき、人は心から楽しんで仕事に向かうことができる。多くの人は意外にもこうした境地に自然にたどり着いている」「仕事人生の締めくくりとして、誰もが仕事で無理なく地域社会に貢献する。こうした姿は、人手不足が深刻化している各地域にとって必要不可欠なものであり、また一人ひとりの生涯の生活様式としても望ましい形になる可能性がある」のあたり。


実際に定年後に小さな仕事に就いている人たちのインタビューが興味深い。役職を解かれた後の同僚との接し方については「基本的には、自分の仕事をしっかりやるということに尽きるが、そのなかで後輩に何か伝える必要が出たときには、対等な関係のなかで説得力のあるものをどれだけ伝えられるか」。仕事への構えとして「仕事のサイズにかかわらず、これまでの経験を活かして定年後の仕事に臨めば、仕事で早く基盤を固められ価値ある仕事を続けていくことがてきる」というあたりは実体験が真に迫る。


定年後の豊かな仕事の特徴として「健康的な生活リズムに資する仕事、無理のない仕事、利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事」を挙げ、「定年後は、キャリアの転機に対して真摯に向き合うなかで、自身ができることを振り返りながら、目の前にある仕事の選択肢を見つめていくことが必要」「仕事とは自身の生活を豊かにするために、またその結果として誰かの役に立つためにあるものであって、キャリアの良し悪しを他者と比較して競うためにあるものではない」という指摘をする。


社会としては「これまでの日本社会は、高齢期に働かないでも豊かに暮らせるための社会保障制度をいかに充実させるかということに、政府も個人も腐心しすぎてきたのかもしれない」と指摘。日本社会が今後目指すべきは「地域に根差した小さな仕事で働き続けることで、自身の老後の豊かな生活の実現と社会への貢献を無理なく両立できる社会。身体的に働くことが不可能な人を除く多くの人が、定年後の幸せな生活と両立できる『小さな仕事』に従事することで、日本社会は救われる」だと主張する。


ただひたすら「老後に2,000万円ないと」「いや、あっても」と不安を煽るだけではなく、こういう現実をしっかりと伝えていないマスコミは問題だと感じるし、この本はアラフィフの自分にも希望を見せてくれる。