今年60冊目読了。ワシントンの大手シンクタンク、戦略国際問題研究所の上級顧問である筆者が、暴発する中華帝国について分析する一冊。
畏友さんが薦めていたので読んでみたら、なるほど、新書とは思えない重厚な分析と洞察の記載が数多い。これはすごいな。
筆者は「中国は、政府の意思決定プロセスが完全に秘密のベールに包まれている」ことを前提に、日本の考慮すべき点について「中国に対峙する日本には、逃れられない現実として①13億人のための意思決定が、たった一人の手に委ねられつつある②日本の離島を守るための実際的かつ現実的な準備を、誰の助けも借りずにしておかねばならない③中国国内では、世界の文化と人道的な徳の需要が着々と進んでおり、心配すべきは短期的展望だけ」と概観。
中国1.0を『200年代の平和的台頭』とし、「国際的な規範や制度、そして法律などをよく守り、台頭を平和裏に、しかも周辺国の警戒心を呼び起こすことなく実現した」とする。
中国2.0を『対外強硬路線』とし、3つの錯誤「①金は力なり②線的(リニア)な予測③二国間関係を持つことができる」によって間違えた、とする。
中国3.0を『選択的攻撃』とし、「実質的に、チャイナ2.0の侵略的な態度と、チャイナ1.0の平和的台頭のどちらも拒否し、妥協案として、二つの間をとったもの」とする。その要素を「①反撃してきた側への攻撃をやめる②新型大国間関係という米中二国間関係のアイデアに乗る」とし、特に後者は「最初は対等な立場だが、中国が発展していけば、最後はアメリカが中国に依存して従属するようになる。そうなってこそ、本来の『天下』が修復され、アヘン戦争からはじまる『百年国恥』も、ようやく終わりを告げる」という考えだ、と指摘。
尖閣問題について「アメリカは、核戦争や大規模戦争の抑止はできているし、大規模戦争を戦う準備もできているが、日常的な小さな脅威は、日本が自らの力で対処すべき問題」「中国の脅威に対処するには、①ハード:艦船や戦車といった物理的装備②ソフト:自分の領土を自分で守るための安全保障関連の法整備」
2015年現在の中国の矛盾した要素として「①巨大な人口を抱え、経済力は世界規模を誇り、巨大な軍事力も持っている②そうした大国の中国がアフリカの独裁的な小国と同じような、政治的不安定性を抱えている」とし、「日本の隣には、巨大でありながら先の見えない国が存在する」状況、と分析。
では、日本はどう中国に対峙すべきか。筆者はまず「慎重で忍耐強い対応は、通常、ほぼ全ての国に対して勧められるものだが、中国のような、規模が大きく、独裁的で不安定な国家に対しては、それが逆効果である」と指摘。
日本の効果的な対処法は『封じ込め』だとし、「意図的な計画は持たないままに、ひたすら『反応する』ことに主眼を置く」「『多元的能力』を予め備えておくことによって、尖閣に関する『封じ込め政策』は、初めて実行可能なものとなる。中国が尖閣に上陸すれば、外務省、海保、海自、陸自、空自のすべてが予め用意していた対応策を即座に実行に移すのである。単なる批判では全く効果はない。具体的な対応策を事前に想定してすぐに実行できるよう準備しておくべき。重要となるのは、最大限の確実性と最小限の暴力」ことを提唱する。
パワーバランスへの分析もさすが。「戦略の逆説的論理として、ある国が大きくなって、しかもそれが平和的台頭でなければ、かえって立場が弱くなる。大国が小国を脅かす際には、小国を他国が支援する構造が生まれる。ところが中規模の国家が小国を攻撃する場合には、勝利できる可能性がある。中規模国家を恐れる国はそもそも少ないので、周囲がそれに対抗しようとはしない」「戦略というものを理解しない者は、まず最初の一手を繰り出して、その次の手、そしてその次の手を繰り出していけば、それが最終的に勝利につながると考えがちだ。ところが実際には、自分が一手を繰り出すと、それに対してあらゆる反応が周囲から起きてくる。相手も動くし、状況も変わり、中立の立場にいた国も動くし、同盟国も動く。そこにはダイナミックな相互作用があるのだ」のあたりは、留意したいところ。
国ごとの特徴への言及も興味深い。ロシアは戦略を除いてすべてダメだが、中国は戦略以外はすべてうまい」「中国の最大の弱点は、国の歴史の長さ、規模の大きさ、そしてその複雑性から生じる、慢性的な『内向き』の性向にあり、中国のリーダーは外の世界を見ることができない。代わりに彼らは『自分たちに都合の良い外の世界』を発明、強化していく」「今日の韓国人は、日本人に従っただけの自分たちの祖父たちを恥じている。その恨みが現在の日本人に向けられている。だからこそ、彼らは決して日本人を許せないのだ」「中国は戦争に負ける文化を持っている。戦略文化が弱いのは、内的なコンセンサスの欠如と、外的な理解の欠如にある」という観点は、日本人からは見出しづらいところである。
国家のダイナミズムについての「経済力と国力の間には『先行』と『遅れ』が存在する」「巨大な間違いを犯すには、そもそもそれだけの能力や資源が必要」「冷静な頭脳は、感情に圧倒される」「国家には、パラメータと変数がある。パラメータは国家そのものの性質、変数はその時の政府の決定によって変化する政策」「一般的に外国についての理解度は、国の大きさに比例する。国の規模が大きくなれば、外国についての理解度が落ちる」も、非常に納得である。
2016年の書籍だが、10年を経た2026年でも筆者の分析・言及は極めて至当。これは一読をお薦めしたい。