世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】佐々涼子「ボーダー 移民と難民」

今年102冊目読了。フリーライターの筆者が、日本語教師時代に在留外国人の苦悩を知ったことから、その実態を深く掘り下げる一冊。


元・会社の友人から薦められた(しかも、中学生の御息女が読んでいたとのこと!)本だが、これは本当に考えさせられる…


筆者の根底にある哲学「人はどこに生まれてくるかを選べない。だが、恣意的に人間の引いた国境線など、何の意味があるというのだろう。私たちは、みな裸のままで生まれてくる。それをこちら側と、あちら側で区別するものは、人間が頭の中で作った境界にすぎない」「肌の色や、背の高さや低さ、どこの国で生まれたか、どこの地域で生まれたか。そういう、自分の力ではどうにもならないことでからかったり、いじわるをしてはいけないよ。なぜかって?そういう風に生まれたのはその人のせいじゃない。なのに、それでいじめるのは卑怯だろう?」は、非常に大事な考え方で、これはすぐにみんな賛同できると思う。


他方、筆者が日本という社会について「どんなに頑張っても日本社会の中では、完全な日本人ではない、どこか異質な人として扱われ、受け入れられない感覚がある」「日本人は”純粋な”もしくは無意識の人種差別主義者であり、この国にも”人種問題”が存在すること、ないし他民族に対する態度に何かが欠けていることを認めない限り、事態の改善は望めない」「きっと私たちの潜在意識の中にあるのは恐れだ。未知の外国人を恐れ、変化を恐れ、今までの平穏が失われるかもしれない恐れである。変化は避けようもないのに、今の秩序にしがみついている。私たちの抱いている恐れが、知性と理性によって照らし出されない限り、入管はいつまでたっても変わっていかない」「働きたいのに働けない難民がいるのに、働いて欲しいのに日本から逃げていく外国人労働者がいる。どこまで探っても日本の政策は、人に対する敬意がなく、ただちぐはぐなだけだった」と掘り下げてくるあたりは、今を当たり前と思っている自分には一定の衝撃がある…


難民への厳しい対応があまりにも衝撃的すぎるのだが、他方、技術実習生についても深く抉る。「技術実習生制度のたてつけには最初から無理があった。労働力は欲しいが、外国人に日本に住み着いてもらっては困る。そんな本音が透けてみえる」「実習生たちはよく規律を守り、命じるとおりに働き、文句を言わず、病気やけがをせずに、結婚も出産もせず、三年で帰る。そんな都合のいい働き手が欲しいのだ。技能実習生たちも、日本社会に愛着などもてるはずもない。お互いに利用し合うドライな関係だ」「日本人は見事に同質性を保ったまま、自分たちの国を作り上げてきた。日本にいる時は、過剰に適応して疑問にも感じないが、海外で同じことを目にすると、やはり日本の社会の特殊性は際立っていて、見ていて落ち着かない。私たちの社会は戦後ずっと生産性を優先してきた。私たちに求められていることは使い勝手のいい労働力であり、創造性や自律性などはお題目として申し訳程度にくっついているだけだ。実習生たちの不自由は私たちの不自由だ」のあたりは、実際に日本経済という環でメリットを享受している日本国民としては目を背けてはいけない現実。
さらに「今や日本の最低賃金は韓国にも抜かれた。即お金が欲しい人たちは当然、賃金の高い国に流れる。日本はもはや出稼ぎ先としての魅力に乏しい。高度な技術を移転するという大義名分を信じている者は誰もいない。短期間に単純労働でお金を稼ぎたいと思っている技能実習生が、日本の薄給で重労働に就くはずがないだろう」という未来が横たわっている以上、本当になんとかしなければならない。


筆者は、差別について「彼らを苦しめているのは、私の持っている先入観と絶望的なほどの無知だ」「我々は誰もがみな避けがたく偏見を持ってしまう。それはもうどうしようもない。だから私たちは毎日膿のように降り積もる偏見や差別を、こまめに見つけ正していかなければならない」と、きれいごとではなく冷徹な対応策を提示。
社会のあり方として「世界情勢は日々めまぐるしく変わり、次々と歴史は更新されていく。日本だけがこのままでいいはずがない。私たちは古い時代の偏見を超えていかなければならない」「国籍を持たない子どもたちの抱える問題は深刻だ。人間は、生まれる場所を選べない。少なくとも国は子どもたちに平等なチャンスを与えて欲しい」という問題提起をしてくるところは本当に考えさせられる。


筆者は、このような厳しい現実を前にしても奮闘する人々がいることに触れ「ぶれないのは芯が強いから」「自分のことを考えてくれる、思ってくれる人がいるというだけで、全然違う」という文章を残す。ここが解決の糸口なのかもしれない。


本当に考えさせられる一冊だが、「人の欲はSNSによって膨れ上がり、加速する。みな豊かになるために一斉に駆け出して、その勢いは止まらない」という現代社会の歪みを表す一言もなかなか心に刺さる。ぜひ、一読をお薦めしたい。