世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小林美希「年収443万円」

今年52冊目読了。就職氷河期を経験したフリージャーナリストの筆者が、安すぎる国の絶望的な生活をインタビューからあらわにする一冊。


筆者が実際の取材から考察した「平均年収では”普通”の暮らしができない国」「平均年収があっても、多くは家計がギリギリ。得体の知れない将来不安も抱え、出費を抑えている。これでは消費が落ち込み、景気が良くならないのも当然だ」「日本の賃金はバブル崩壊後から伸び悩んでいる。国はいつも企業の論理を優先させ、人件費を抑制できるような労働法制の規制緩和を行って、真の問題に向き合ってこなかった。雇用や生活が破壊される背景には、法律や制度の構造問題がある」という現実は、とても切実。これで増税とか言ってる岸田政権はつくづく世の中が見えていない…


インタビューは生々しい現実を浮き彫りにする。「小遣いは昼飯代込みで15,000円ですから、何もしちゃダメなんです。何かしたら使わないといけない。じっとしていないと」「道徳で習ったような『心の豊かさ』って、結局、お金で買うしかないんじゃないですか?」「社会に出た時期によって、世代によって、運命が変わる。苦労するか、良い暮らしができるか。そんな差があっていいんですか?なんで国はそういうつらい目に遭っている人にお金を出して救わないのか」「公立の小学校に行って、子どもが『学校がつまらない』『学校に行きたくない』と言う。なんで?と思うけど、冷静に考えたら、学校が面白いことをやっていない。子どもがやりたいことをできない。だから、中学は私立に行く。でも、それって、おかしいと思うんです」は、考えさせられる。
さらに、「必死に働いても非正規労働は報われない。何か権利を主張しても無視される。そういうことがあまりにも多く、理不尽だと思います」「コロナ禍の一斉休校は最低の政策。緊急事態となったときにこの国はまず、子どもと女性を切り捨てた」「女性や子どもの貧困は確かに深刻で問題になっているけど、同時に中高年の貧困も取り上げてほしい。介護、奨学金、低所得の三重苦。努力しても低所得から脱せない。この現状を知ってほしい」という現実も、やはり直視すべきことだ。


筆者は、丹羽宇一郎伊藤忠商事社長からアドバイスをもらって貧困問題に取り組んだというが、丹羽社長の「若者の非正規雇用化は中間層を崩壊させ、やがて消費や経済に影を落としていく。このまま中間層が崩壊すれば、日本は沈没する」「若者が明日どうやってご飯を食べるかという状況にあっては、天下国家は語れない。人のため、社会のため、国のために仕事をしようという人が減っていく」という警句どおりになっていることに衝撃を受ける…


筆者は経緯を分析した後で、現状を「個々の労働者を見ないで経済界を向いた自民党政治によって、雇用の質が着実に悪くなっていった」「子育て中の就職氷河期世代は今、雇用と保育の二重の規制緩和に苦しんでいる」「目の前の生活で精一杯なうえ、子どもの学費と自分の老後の費用も必要。いったい、いくら必要なのか。老後破綻は目の前にある」と述べる。
もちろん、簡単な解決策はない。が、「私たちは日々の生活で精一杯になり、考える余裕をなくしている。私たちが『思考停止』状態に陥ることは、為政者や経営者にとって都合がいい。どんどん一部の利益にしかならない政治になり、私たちはますます考える余裕をなくしていく」という状況であっても「社会全体のことを考えなければ、不利益が予想以上に大きくなって自分に返ってくる。分かっているけど、自分ひとりで何かができるわけではないと思う。それが、私たちが抱える漠然とした不安の本当の正体ではないか。私たちが今、どういう社会に生きているかを知り、そこから一人ひとりが考えていかないと、日本は完全に沈没してしまうだろう」という危機感を持って、この問題を考える必要があろう。


非常に考えさせられる本だった。この本が良書であるうちは、日本はダメなんだろうな…考えないと。