世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】河合薫「コロナショックと昭和おじさん社会」

今年28冊目読了。健康社会学者である筆者が、コロナが暴き出した昭和おじさん社会の弊害を分析する一冊。


昭和おじさんに分類される身として、思わず手に取ってしまった本。読めば読むほど身につまされる…


そもそも、なぜ今昭和おじさん社会が問題なのか。「今の日本社会のしくみは、1970年代高度経済成長期の『長期雇用の正社員』『夫婦と子ども2人の4人家族』『ピラミッド型の人口構成』というカタチをモデルにしている」「昭和のエリートが陣頭指揮をとったことで、社会のカタチが変わった平成の時代にまで『昭和のカタチ』が引き継がれてしまった」「社会の秩序の中でたまっていたひずみが、物理的にも心理的にも噴き出した。コロナが『パンドラの箱』を開けた」はまさにそのとおり。そして「突発的な変化は格差を浮き彫りにしてしまう」「『競争は好ましいが、その競争の結果が収入格差に結びつくべきではない』という矛盾が、悲しくも利己的な社会と分断を生んでしまった」というのも真理だな。


今の企業のあり方にも疑問を呈する。「信頼は信頼の上に生まれるものであって、不信が信頼を生み出すことはない。ましてやいったん構築された心理的契約を経営者が一方的に破れば、従業員の信頼を取り戻せる見込みはほぼない」「問題は『長期雇用』にあるのではない。長期雇用の利点を引き出す経営をしてこなかったこと」「産業構造が変化し、競争相手も増え、経営能力が試される時代で、『人』の可能性を引き出す経営より『カネ』の絶対的価値を信じた経営を優先したことが、日本企業の最大の問題」は、確かにそのとおりだな…「未来の自分=シニア層をどんどん解雇する会社に、若手が期待するわけがない。社員=人に投資することで、チーム力の高い価値ある会社ができあがるのだ。社員を単なるコストとしか考えない会社の未来に何が待ち受けているというのだろうか」となるのも、むべなるかな。


貧困問題についても「男性の場合、中高年で貧困リスクが高まり、そのまま高齢期をむかえてしまうおそれがあり、女性の場合は常に貧困と背中合わせで、特に高齢期に深刻になってしまう」「単なる雇用形態の違いなのに賃金格差をもたらし、身分格差にすり替えた末路が日本の突出した相対的貧困率の高さにつながっているのではないだろうか」「貧困という経済的な問題が、子供との関わり方にまで波及していく。貧しさは物質だけでなく、将来の展望、教育や励まし、時間や愛情など、多くのリソースの欠乏につながっていく」と、その問題の根深さに切り込む。


「言語と思考は互いに結びついていて、母語により私たちは目に見えないものを概念として把握し知覚する。精神的な世界は言葉がないと成立しないし、目の前に見えているものでさえ、それが何かを理解できない。つまるところ、”英語屋”を過剰にもてはやし国語教育を軽視することは、『思考する』という、生きる上で根源的な力を鍛える機会の喪失につながる」


人間が陥りがちな罠としては「人の心は習慣で動かされる。人間とは厄介な生き物で、自分のイメージで世界を見る。目の前で起きている事でさえ、見間違うことがある。大抵の場合、悪気はない。ただ、人は思い込みで動くという性質があるので、つい見過ごしてしまう」「人は誰しも『私はここにいるんだ』と叫びたい。『数字』はその声を消してしまう」のあたりが心に響く。


筆者の強い主張は「いつの時代も、人を豊かにするのは無駄な会話であり、無駄な時間であり、無駄な空間である」「他者とは光。いつだって人を救うのは『人』だ。厳しい言い方をすれば『光』は自分で見つけるしかない。だが、誰もが他者のホープを引き出す存在になれる」のあたりで感じられる。本当に同意できる。


そのほか心に残ったのは「希望は決して特別なものではなく、当たり前の日常の中にある」「人は弱く、それでいて強い。自立と依存はコインの表と裏ではない。真の自立は依存の先に存在する」「前にちょっとでも踏み出せば不安は軽減されるものだ」そして筆者の結論「人とのつながり、社会との関わり、生命の尊さ。それらの大切さに気づくことが、生きる力を高め幸福感を高める。生産性とはその結果の産物でしかないのだ」のあたり。


コロナ禍は、あらゆる問題を明確化した、という見解には大いに賛同する。そして、どう変化できるか。そこにかかっているんだろうな…