世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】町田そのこ「星を掬う」

今年29冊目読了。母に捨てられた子が30歳になる頃に、記憶障害に陥っていく母親と邂逅し、不思議な運命の糸をたどっていく一冊。


畏敬する先達がお薦めしていたので読んでみたら、なるほどこれは考えさせられる…老人介護、親の「呪い」、自分らしく生きるとは何か、恵まれているとは何か。数々のメッセージがここにはある。是非とも一読をお薦めしたい。


ネタバレ回避で、心に残ったフレーズを抜き書き。


「わたしは愚かだ。もう無理だ、どうにかしなくちゃ、と思っているくせに、結局は何も行動できずに同じ事を繰り返してしまう。生活が破綻するその日まで、わたしはどうしようどうしようと言いながら、こうして職場に向かって自転車を漕いでいるのだろう」


「『わたし、可哀相って言葉嫌いなんです。千羽鶴みたいじゃないですか。何も救わない』誰かの自己満足のために役にも立たない善意を押し付けられる。勝手に与えてくるくせに、感謝を強いられるこれは何なのだろう」


「わたしの悩みに耳を傾けて、わたしを認めてくれる存在が、欲しかった。明日への不安ではなく、明日への希望を語ってくれるひとが、欲しかった」
「自分の痛みにばかり声高で、周りの痛みなんて気にもしないなんて、恥ずかしいと思えよ」「辛かった哀しかった寂しかった、痛みを理由にするのって、楽だよね。誰かのせいにすると、自分がとても憐れに思えて、だから自分の弱い部分を簡単に許せた。ひとのせいにして思考を止めてきたわたしが、わたしの不幸の原因だったんだ」


「自分の人生は、自分だけのもの、よ。誰かのために消費しちゃだめよぉ。自分で、輝かせないと」「他人の悪意に負けて自分の生き方を狭めるなんて許さない」「自分の手でやることを美徳だと思うな。寄り添い合うのを当然だと思うな。ひとにはそれぞれ人生がある」


「誰かを理解できると考えるのは傲慢で、寄り添うことはときに乱暴となる。大事なのは、相手と自分の両方を守ること。相手を傷つける歩み寄りは迷惑でしかないし、自分を傷つけないと近づかない相手からは、離れること」


「加害者が救われようとしちゃいけないよ。自分の勝手で詫びるなんて、もってのほかだ。被害者に求められてもいないのに赦しを乞うのは、暴力でしかないんだ」


認知症というのは、記憶や感情を自身の奥底にある海に沈める病気だ。本人さえも、その水面は簡単に掬えなくなる。いまの母は何をどれだけ掬い取れるか分からない。ならばせめて、その手に掬い取れるものが星のようにうつくしく輝きを放つものであればいい。悲しみや苦しみ、そんなものは何もかも手放して、忘れてしまって構わない。きらきらした星だけを広げ、星空を眺めるように幸福に浸っていてほしい。その星々のひとつに、わたしとの記憶もあったら嬉しいなと思う」


「自分を見下げて、自分の人生をひとに明け渡し続けた痛み。それがもし誰かの役に立つのなら。そしたら、わたしの人生が無駄じゃなかったと思える。痛みも哀しみも、何もかもが必要なものだったと、胸を張れる」


余談ながら、ブルース・リー好きとしては「ひとってのは、水なのよ。触れ合うひとで、いろもかたちも変わるの」の言葉が心に染みる(リーは「友よ、水になれ」という言葉を遺している)。