世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小林邦宏「鉄道ビジネスから世界を読む」

今年27冊目読了。ユーチューバーにして旅するビジネスマンの筆者が、鉄道ビジネスから世界の新しいルールを読み解く一冊。


鉄道に携わるものとして読んでみたら、「鉄道」はフックでしかなく、世界ビジネスの潮流を考える本だったが(苦笑)、それはそれで面白い。


筆者は、鉄道のゲージ(線路幅)争いから「蒸気機関の発明と鉄道の発達が人類に『スタンダード』という概念を与えた可能性は高い」と主張。そのうえで、鉄道ビジネスについて「環境重視の観点から、環境と社会とガバナンスを結ぶ鉄道ビジネスは推奨すべきインフラ投資」「アフリカは鉄道ビジネスにとって成長の余地を十分に残した黄金色のフロンティア」「鉄道や水力発電などの『ローテク・プロジェクト』では、入札の際に、どうしても『品質よりも価格の安さで勝負』という中国企業が有利となってしまう」「日中間の人件費コストの圧倒的な違いで、コスト面では入札で中国が日本に負けることはない」と述べるあたりは、そうなんだろうな…


結果として「アフリカでも中国でも『鉄道を敷いた土地に自分の権力を反映させた国家ができる』というのが彼らの考え方」「実際の世界は、少なくとも科学的な意味での『安全性』とは別の価値観を軸に動いている。メイド・イン・チャイナでなくても事故は起きる。そして、その後も鉄道は走り続ける。そのことだけが、鉄道ビジネスの現実のように思えてしまう」となる。
そして、起こることは「債務危機に陥り、本来は債務そのものよりも高価値の担保物件を奪われる『融資の罠(債務の罠)』。この貸し剥がしともいえる手口は、中国が経済大国になってから始めたわけではなく、数百年前からアジアの各地で経済的基盤を築いてきた華僑(華人)たちも伝統的に用いてきたもの」という事態…やはり中国は底知れない…


日本で当然のように思われていることについても「現在の社会で金科玉条のように崇められているグローバルスタンダードも、もとを辿れば、ニクソンショックによってドルの基軸通貨としての強みを目減りさせた米国が、新たな世界戦略として打ち出したものに過ぎない」「国連の掲げるSDGsは超低成長が前提で、欧米先進諸国が環境問題の現実を突き付けられた結果、成長は諦めて現在の生活レベルを細く、そして少しでも長く維持していくためのものに思えてしまう」と疑義を述べる。こうした視点を持つことは大事だな。


日本の未来について「サハリン2は、日本が撤退すれば、中国がその”居抜き”物件を利用することを前提にロシアから新たな契約を取り付けるのは間違いないだろう」「今後も『細く長く』に価値があるとすれば、それは『未来が予測可能』な場合に限られるだろう」「日本では一般的に『汎用性のある技術』が高い評価を得る傾向にあったと思うが、現在の世界市場で生き残るために必要な技術は『唯一無二の価値を生む技術』」と、その危機を予測。
と述べながらも「でも、読者の皆さんが心配することはまったくない。日本ほど、”多次元的”な視点に欠けているビジネス世界はない。つまり、誰もがこれからスタートラインに立つ状況」と言うが、それって励みになるのか?


鉄道について言えば「かつての移動時間というものは”死んだ時間”だった。しかし、現代のビジネスマンが新幹線に乗って、まず開くのはラップトップPC.もちろん、通信も可能だ。こうなると、新幹線の速度が上がっても、さほどうれしくないだろう。むしろ、列車の速度よりも『快適な作業環境』こそが、利用者が鉄道に求めているものではないのか」という言及はなかなか興味深い。


ビジネスのツボとしての意見も面白い。「西側先進国での『ダイバーシティ』と『グローバルスタンダード』というふたつの概念がビジネスチャンスを生む」「1点から全体を、全体から1点をといった具合に視野を拡大・縮小しながら『このテクノロジーが、異業種で花開くとしたら、それはどこだ?』と常に考える」「『時間』という新たな発想の軸を手に入れれば、日常生活のあらゆるシーンから新たなビジネスのヒントが得られるはず」などは確かにそうだし、「百聞は一見に如かず、現場でこそわかることがある、現場でしかわからないことがある」はさすが旅するビジネスマン。


その他、興味深かったのは「本当にレアな情報をもたらしてくれるのは、なんといっても自分だけの親密な人脈。幸運は必ず人脈の延長線上にある。人脈を得るために必要なのは『信用』であり、そのために自分の利用価値をアピールする」「あなたの信用は、自分でデザインできる。ただし、その信用は、誰も信じてくれなければ無価値になる」のあたり、これは、どこの仕事でも共通していそうだな。