世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】クライブ・ハミルトン「目に見えぬ侵略」

今年177冊目読了。オーストラリア研究所の創設者・元事務局長の筆者が、中国の対豪戦略とその侵食に警鐘を鳴らす一冊。


かなり分厚い上に二段書きであり、相当読み疲れたのだが、それだけの価値はある、と感じられる。


中国共産党の基本的戦略として「北京の世界戦略における第一の狙いは、アメリカの持つ同盟関係の解体である。その意味において、日本とオーストラリアは、インド太平洋地域における最高のターゲット」「北京が使っている最大の武器は、貿易と投資。中国と他国との経済依存状態を使って、政治面での譲歩を迫る」「処罰の脅しを含めた親密な個人関係を使うやり方は、中国の常套手段」「中国はいまや『その過去を完全に消し去ってから創作しなおした国』」と喝破。
そして、根本にあるのは「中国は百年にわたり、横暴な西洋と惨酷な日本人に踏みにじられてきた。しかし、今や中国人(漢民族)は団結して立ち上がり、偉大なる中華帝国を再興する時が来た」だと指摘する。


中国共産党の手口としては「華僑の管理は『僑務』として知られる。これは、社会のあらゆる階層の華僑の取り込みと協力、状況や構造的な状態が中国共産党の望むものになるよう、インセンティブや抑制を通じて彼らの行動や認識を管理することを含む、莫大な工作」「中国はローンの貸付やインフラのコントロール、そして天然資源の所有権を通じて、影響力を拡大させており、一帯一路はこのプロセスをさらに増進するもの」「北京は確かに軍事力を拡大しているが、その本当の実力は、経済を武器として使えることだ」「中国の経済的なツールとして最も影響力のある一つは、経済的に被害が出るのを怖れる国に、深刻だが曖昧な脅しをかけるものだ。これが効果を持つのは、相手政府がそうした脅しを信じるからだ」「中国はオーストラリアやアメリカのような国に対して、独自の優位性を持つ。社会的な圧力によって自国民を動員し、はるかに効率よくボイコットを行うことができ、外国企業に処罰を加えることができるからだ」という大枠を示す。


そして、具体的には「係争地の主権を主張するうえで、北京は自国のものとして強力に『再請求』できる海や陸の領土の歴史的な所有権を確立するために、千年以上さかのぼっている。こうすれば強制的に返還を請求できることになる」「北京は『中華民族』という概念の使用を、漢民族による非漢民族地域の支配を正当化するために促進している」「高等教育の場はイデオロギー工作における最前線だ」「中国の諜報機関は人間の『4つの不徳』である情欲、復讐欲、名声欲、強欲を利用する」「中国が明示的に狙うのは、自国のテクノロジーやエンジニアリングの能力を、他国の研究実績を拝借して築き上げようとすることだ」という行動に出るということを警告している。


今のオーストラリアの状況については「中国は世界を支配しようと計画しており、オーストラリアとニュージーランドを西洋での優位性を行使する戦術を試す試験場として使っている」「オーストラリアでは、われわれは言動に注意し、中国を怒らせないよう脅えており、告発を促す政治に脅かされ、その結果としてわれわれの自己肯定感を犠牲として捧げている」と、強い懸念を表明する。


最終的に「北京は他の国々が経済的な攻撃に対して抵抗の姿勢を見せれば、手を引く」のであるが、「西洋人は親切なビジネス関係構築のアプローチを、本物の『友情』と勘違いして警戒心を緩めた挙げ句、彼らに簡単に手なずけられてしまう」「われわれのナイーブさや独善性が、北京にとっての最強の資産なのだ」と、現状に警告をして「すべての民族的背景を持つオーストラリア人がその危険を理解することができれば、われわれは新しい全体主義から自分たちの自由を守る戦いに着手できるだろう」と結ぶ。


我々日本人としては、「レーニン式のプロパガンダ体制は、大衆の口を通じて大衆を説得するのではなく、他者に本当に重要なことを報じないよう脅したり困惑させることで成立するのだ」「中国の政府高官が真実を語ってくれるのはどのような時か?彼らが酔っているか、うっかりと口を滑らせた時だ」という極めて危険な隣国であることを改めて認識する必要がある。自分は、歴史的経緯から、中国の文化などには高い経緯を払う気持ちは持っている。しかし、それと共産党支配手法は全く切り離す必要があろう。大作ではあるが、読むべき本だ、と感じる。