世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】松家仁之「光の犬」

今年176冊目読了。編集者を経て作家になった筆者が、北の町に根付いた一族三代と、そのかたわらで人々を照らす北海道犬の姿から、生のきらめきと翳りを描き出す一冊。


大学の畏友から薦められて読んでみたが、これがまぁとても面白い。丁寧に、味わいながら読みたい本。特に、たまたま久々に老いた親に会ったタイミングだったこともあり、かなり身につまされたこともある。


ネタバレ回避で、気になった言葉を。


命が尽きる、一族が消失に向かう、という事に関しては「寿命がつきる瞬間を想像するのは、宇宙の果てをこの目で見ようとすることに似ていた。それははるか遠くの不可知の出来事だった」「消えてゆく準備─それは大きな輪を、中ぐらいの輪に縮めること。小さな輪をさらに中心点に向かって縮めてゆくこと。輪だったものはやがて点になり、その小さな点が消えるまでがその仕事だった」のあたりが心に残る。


前向きな意識として「受け取る人がほんとうはなにを必要としているか、そしてこの先にあったら役立つものはなんだろうか、これをまず、よくよく考えてこそ、いいプレゼントになります」「人生にはときに、なにかにおおきく動かされ、新たな道が開かれることがあります。それは誰にも説明のつかないタイミングでやってきます。そのためには、毎日が同じだと決めつけることなく、あたらしい風になにかを感じ、あたらしい風に耳を澄ませてください」「ひとは数字や計算に溺れやすいんだ。しかしそれは手掛かりにすぎない。いったん数字を離れてみないといけない。離れたら、こんどは想像力だ。点と点を結ぶのは数字じゃない。仮説は想像力からしか生まれない。最後はいつも、さて、どういうおもしろい嘘をつこうか、くらいに考えたほうがいい」のあたりは持ち続けたいところ。


他方、暗い側面として「外敵を排除すれば解決するという発想は、いまも根本に残っている。それは間違いだ。人間のからだは、敵と味方が毎日、役割を交替して、せめぎあう複雑な均衡を保ちながら成り立っていると考えたほうがいい」「血のつながった親子は、じつはやっかいだ。血のつながりのない他人に愛されて育てられたら、かえってほんとうの信頼を育てられるかもしれない。子どもをほんとうの意味で自由にするものがなんであるか、正解はないと思ったほうがいい」「きょうだいのいる暮らしをにぎやかで好ましくおもう一方で、きょうだいがいることはときに苦しみの種ともなりうるのではないか、とおもう」ということも、留意しておきたい。


人間の弱さということでは「不安を紛らわせる知恵はついたかもしれない。それでも、いまいるここが安全地帯かなど、何の保証もないと知っていた。いつどこで床をふみ抜くかわからない。五十代半ばなりの不安が日頃の用心深さにつながっていた。臆病な自分に少しうんざりもしていた」「優しい。でもしれは、なにも言えない気弱さのうら返しでもある」「自分の気持ちですらよくわからないのだから、ひとの気持ちなど、わかるはずがない」のあたりも(嫌だが)惹かれる表現だ。


絵も人間関係も上達しない身としては「絵にうまい下手なんてないんだ。自分は絵が下手だと思っている奴がいるとしたら、それはちゃんと見て描いていないだけなんだよ。わかるか?ちゃんと見ない奴は、いつまで経ってもちゃんと見ない。見たくないんだろうね、たぶん。その気持ちはオレにもわかる。見えないほうが楽だからね」が非常に刺さるなぁ…


やはり、本は自らの構えとタイミング。それを実感させてくれた。