世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】カレン・フェラン「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」

今年9冊目読了。経営コンサルタントの筆者が、コンサルタントが組織をぐちゃぐちゃにするメカニズムを解き明かす一冊。


三谷宏治お薦めの本シリーズだが、これまた非常に面白い。実話が生々しすぎて、思わず入り込んでしまう。


そもそも、仕事や職場のシステムについて「ビジネスとはすなわち『人』なのだ。非理性的で感情的で気まぐれでクリエイティブで、面白い才能や独創的な才能を持っている人間たちのことだ。そんな人間が理屈どおりに動くはずがない。これ以上、職場から人間性を奪うのはやめるべきだ」「問題は、状況に反応する人間の側にある。ビジネスの問題はことごとく、状況に対して反応する人間が引き起こしている」と見抜いている点は非常に慧眼だと感じる。


さらに、数々のコンサル経験から「数字で『管理』できるのは数字だけ」「対処方法や手順を示すことは考え方を狭める。失敗例や問題点を示すことは考え方を広げる」「業務プロセスの問題の原因は、不信、部門間での目標の対立、拙速、バカだと思われたくない」「経営改革手法はあくまでもガイドラインとして、あるいは各自の判断で用いるべきツール」「優れたマネジメントスキルとは、よい関係を築くためのスキル。テクニックや理屈の問題ではない」「リーダーになる人には、必ず成功するんだ、という強い意志がある。利他的な目標であれ、利己的な目標であれ、リーダーは目標を達成するために不断の努力を重ねる」「人間性に逆らって働くよりも、人間らしく働いたほうがずっとラクで、そういう会社のほうが成功する確率が高い」と提言する点は、直感的にそうだろうな、と思う。


また、コンサルタント的考え方で陥る罠も紹介。
戦略による問題解決については「戦略の開発及び実行の現状は①将来を予測する②予測に基づき、大胆なストレッチ目標を設定する③目標にとくに関係ない従業員らも、同じ目標に向かって努力するよう周囲を説得する④目標達成に向けて邁進する⑤成功を祝う! 会社がつぶれるのも、従業員が職を失うのも、こんな考え方のせいだ」「ほとんどの従業員は問題をよくわかっており、自分達でも何とかしたいと思っているのに、彼らには業務のやり方を変える権限すらなく、疎外されている」。
数値・目標管理による生産性向上については「目標の評価基準にもとづいて報酬や罰則を設定してしまうと、社員は会社の利益を犠牲にしてでも自分の利益を追求しようとする」「具体的な指示と数値目標を与えられ、つべこべ言わず徹底的に、つまりは何も考えずにただ目標を達成しようと命じられるシステムそのものが、人間の判断力を失わせるように設計されている」「指標は手段であって目的ではない。数値目標が悲惨な結果を招いているのは、それが会社にとって本当に重要な目標に取って代わってしまうから」。
業績評価については「上司の評価は、●えこひいき●価値観や人付き合いの仕方が似ている●年齢、人種、性別による差別●ハロー効果/ネガティブ・ハロー効果●自分自身の処遇、という偏見に左右される」「業務に金銭的な価値を付加することで、はからずも業務自体には価値がないというメッセージを伝えてしまう」「業績が悪い理由は『能力』より『環境』が大きい」。
…と、バッサリとぶった切る。
他方、よいプログラムは「●社員同士の交流を改善する●判断力を強化する、または考え方を広げる●社員が生活を楽しめる環境をつくる●顧客の生活を豊かにする」、と提言。これは確かに仕組みや数値管理ではたどり着けない場所だな。


では、どうすべきなのか。「自分達で何週間もかけて分析し、結果をまとめ、結論を出したことから学ぶのと、ただ報告書を読んで学ぶのとでは、雲泥の差がある」「人は上から押し付けられた目標よりも、自分で決めた目標に取り組むほうがずっとやりがいを覚える」「ドグマを鵜呑みにせず、自分達のやろうとしていることがどんな結果をもたらすか、しっかりと考える」という提言は非常に参考になる。


筆者が最後に述べる「問題を起こすのも人間なら、それを解決できるのも人間。じつに単純明快ではないか」という点も、共感できる。変に仕掛けにこだわらず、リアルにものごとを見た方がいい、ということだろうな。興味深い本だった。