世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】斎藤広達「超文系人間のための統計学トレーニング」

今年111冊目読了。経営コンサルタントの筆者が、「数字を読む力」が身につく25問を設定して訓練することを薦める一冊。


何気なく図書館で手にしたのだが、これはなかなか良書だ。自分のような、まさにゴリゴリの文系人間でも「統計学をどうビジネスに使うのか?」と考える参考となる。


統計学にできることの3つのポイントを「①数字の意味を自分事として知る②先を予測する③AI時代に対応する」とし「数字に強い人の特徴は『数字を自分事にすることに長けている』ということ」として「未来予測で重要なのは『当てること』ではなく『どんな未来になっても対応できるようにしておくこと』」と心構えを説くのは、なるほどと感じる。


癖にしておくとよいこととして「ざっくり全体像をつかむ際に1人あたりの平均値を出してみること。その結果に違和感を抱いたら、中央値をチェックすることでより踏み込んで考える」…そんなの、やったことなかった。


大数の法則をビジネス教訓にすることとして「何事も成功の確率がどれくらいあるかを考えてから、行動を起こすべき。また、最初の内は想定通りにいかなくても焦らない」と指摘。さらに期待値の算出を通じて「重要なのは『議論のベースを作る事』。仮でもいいので具体的な確率と数字を出すことで、議論が前に進むようになる」ことを目指すべきと主張する。


一般的に「新規開拓率は『335』になる。訪問成功率30%×提案成功率30%×クロージング成功率50%=商談成約率4.5%」という経験則に始まり「組織のあらゆることは正規分布のカーブを描くことが多い」「人間関係のあらゆる面において『正規分布』の考え方を応用すると、いろいろなことが見えてくる。たとえば、初対面の際の印象に当てはめると、初対面で好意を持ってくれる人は16%、逆にネガティブな印象を持つ人も16%、どちらでもない人が68%。どんなに頑張っても16%の人からはあまりいい印象を持ってもらえない。そう割り切れば、人間関係にあまり深刻に悩むこともなくなる」「Sカーブは、正規分布を累積で表したもの」と、正規分布を現実世界で使うことを積極的に提唱する。


さらにに、「統計学的に意味のある調査をしたいなら、最低でも無作為抽出で30人に聞いてみるべき」としつつも、社内で意見を聞くことの意味として「『社内を巻き込む』。意見を求めることで『自分も商品づくりに参加している』という意識を社内に醸成することができる」というのは、ただの統計学者ではなく、実務者ならでは。


回帰分析において「上の外れ値があればチャンス。そこには何かしらの『売上を上げるヒント』が含まれている可能性が高い」と述べ、「1つの要因だけではなく複数の要因からある結果を導き出す手法のことを『多変量解析』といい、用いられる回帰分析のことを『重回帰分析』と呼ぶ」と分かりやすく解説してくれる。


現代は「どんな数字もネット検索で一発で調べることができる今、本当に求められているのは『ネット検索で出てこないような、答がない問いに答えを出す能力』。そのためには、仮説を積み上げ、『こうではないか』という数値を出してみる能力が不可欠」という指摘は、なるほどなぁと感じる。


単なる統計学の掘り下げではなく、実務に引き寄せている点が好感を持てる。これは読んだ甲斐があった。