世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ダンカン・ワッツ「偶然の科学」

今年10冊目読了。コロンビア大学社会学部教授にして、ヤフー・リサーチ主任研究員の筆者が、どのように常識が我々を過ちに導くのかを解き明かす一冊。


安定の三谷宏治お薦め本で、これもやはり読み応えがある。常識にとらわれるな、とはよく言われる話だが、その力の凄まじい強さとその影響をまざまざと見せつけられる本だ。


常識とその力については「我々の日常の思考や説明に埋め込まれている誤謬は、我々の根強い信念の多くにも、必ずあてはまる」「常識の特徴は、実践的であること、それの命ずるままに個々の具体的状況に対処できること、時代や文化によって大きく変わってくること」「常識に関わる対立は驚くほど解決が難しくなる」「常識に基づく説明は、集団を代表的個人に単純に置き換えることにより、個人の選択がどう積み重なって集団の行動になるのかという問題をまるきり無視してしまう」「常識に基づく説明は、なぜ物事が起こったかを教えているように想えても、実は何が起こったかしか述べていない」「常識に基づく説明は、実際は単に出来事が連続しているだけなのに、因果関係があるかのように誤解する」とズバリ断言する。


人間の陥りがちな罠は「個人の行動についての我々の思考パターンには根本的な欠点があり、集団の行動についての思考パターンはもっとひどい」「人間は、自分の信念に一致する情報にばかり注目し、一致しない情報には疑いの目を向ける」「常識を疑うかモデルを疑うかの選択を迫られたとき、われわれはいつも後者を選ぶ傾向がある」「起こらなかった事柄より起こった事柄を重視する傾向と同じく、興味を引かれる事柄へのバイアスがある」「ある問題に関係していそうな要因を見抜くのはおおむね上手であるものの、ほかの要因に比べてその要因がどれほど重要かを見積もるのはおおむね下手」と指摘。


集団になった場合の行動特性については「影響がなんらかの感染過程によって広まるとき、結果はそれを引き起こした個人の特性よりもネットワーク全体の構造にずっと大きく左右される」「情報を広めるうえで最も費用対効果が高かったのは、影響力が平均かそれより小さい、われわれが一般のインフルエンサーと呼んだ個人の場合が多かった」「実用目的のためには、大きな連鎖のことはいっさい忘れ、小さな連鎖をたくさん作ろうとした方がいい」と述べている。これまた納得だ。


どのようなことに留意をすればよいのか。「人間のどんな行動も、個人がみずからの選好を満足させようとする試み」「だれかが一見奇妙で不可解なことをしていても、頭がおかしいとか理に合わないと言って片付けるのではなく、合理的なインセンティブを見つけるために相手の状況を分析しようとすべき」のあたりは参考になる。


突き詰めると、筆者は「人生には明確な『結果』があり、そのときになればある行動の意味を最終評価できるという考え方そのものが、都合のいい作り事に等しい」「優秀な戦略が成功するか失敗するかは、すべて最初の展望がたまたま正しいかどうかにかかっている。そしてそれを前もって知るのは困難というより不可能」と身もふたもない言い方をする。
が、それを認めたうえで「『予測とコントロール』から『測定と対応』へ」「系各社は、第一に、どんな問題であれ、現場の人間がおそらくその解決策の一部をすでに有していて、それを共有する気があることを認識しなければならない。第二に、あらゆる問題の解決策を自力で探す必要はないことを認識したら、分野にとらわれずに既存の解決策を探すことに資源を割り当て、その解決策をもっと広く実行する」という提言は、とても納得できる。


非常に興味深い記述が多く、面白かった。