世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジェーン・スプリンガー「1冊で知る虐殺」

今年58冊目読了。作家、編集者、国際関係コンサルタントの筆者が、ジェノサイドの歴史と実態を紐解く一冊。


憎しみの連鎖、そして繰り返される悪循環。それにどう向き合うのか?ということについて書かれた本を読みたくなって、手にした。


そもそも「『ジェノサイド』は『人種』を意味するギリシャ語の『ジーノス』と、『殺害』を意味するラテン語の動詞『カエデレ』から派生した『サイド』が語源で、1943年にポーランド王国弁護士ラファエル・レムキンによって作られた造語」「過去のジェノサイドは征服活動の一部とみなされ、隠す必要のない誇るべきことだった。ところが人権の概念が発展するにつれて、集団構成員の絶滅危惧種を正当化するのは道徳的に難しくなり、19世紀と20世紀には密かにおこなわれるようになった」という歴史経緯はなるほどと感じる。事柄は昔からあったが、問題となったのが最近、ということはそうだろうな。


ジェノサイドが隠蔽されるシステムについては「ジェノサイドの歴史が記録されないのは、①歴史はいつも勝者によって、生き残った者によって書かれるから②人は過去を葬ったり、トラウマになった出来事を心から追い出したり、『見て見ぬふり』をしたりして、考えなくてすむようにしているから」「個人や政府がジェノサイドを否定して罪を逃れれば逃れるほど、ジェノサイドは再発し、否定しやすくなる」と記す。


ジェノサイド発生の土壌については「ジェノサイドはどんな場所でも起こる。ひどく民族主義的な考えをあおる社会。、自国を美化し、他国を悪し様に言う社会。思想や宗教や表現の多様さを認めない社会。現在の加害者が過去のジェノサイドの被害者だった場合。ジェノサイドが起こる可能性は高い」「ジェノサイドの共通点は、①殺すか殺されるかという二者択一の状況②国民が権威に従順なこと」などを挙げる。
そして「ジェノサイドは戦争に乗じて起こることが多い」「各国政府は戦略上の権益を守るときは進んで自国の軍隊を危険な場所に送り込むが、単なる人権問題のときには完全武装した軍隊を派遣することはまずありえない」というのもそうだなぁと感じる。結局、戦争とそれに付け込む各国の思惑が事柄をさらにややこしくするんだな…


また「ジェノサイドの要因は多様である。ほとんどすべてのジェノサイドが、相互に関連する複数の要因から生じる『複合ジェノサイド』」ではあるものの、その類型として「①国民国家とくに民族的に均質で、一枚岩的な国民国家を建設するためにジェノサイドが行われる②戦争、内戦といった非常時にジェノサイドが行われる③新体制を手にした政治勢力・指導者が、自らの権力基盤を強化・安定化させるため、警察・治安勢力を動員して反対勢力の一掃をはかる④植民地・入植先で領土・勢力圏の拡大・保全や経済資源の開発を目的に先住民へのジェノサイドが行われる」という形で分類しているのも、わかりやすい。


ジェノサイドを阻止するには、どうすべきか。「ジェノサイドが忘れられることなく語られ、歴史として記録され、論じられ、伝えられるようにしなければならない」は、ジェノサイドの隠蔽性からしても大事なことだ。
個人レベルでは「ジェノサイドを見て見ぬふりをしない。固定観念で人種をとらえなく。同性愛者へのバッシングやあらゆる種類のいじめに加わらない。人種差別的、性差別的、自民族中心主義的なジョークを聞いても、笑ったりしない、等」とすべきと解く。実際、ジェノサイドに立ち向かう人の特徴が「強い個性や自立心を持ち、他人のために立ち上がった経験がある。人助けはごく当たり前のことで、とくにほめられるようなことをしているわけではないと考えている等」であるから、この心構えは大切だな…


被害者救済には「被害者に自分は安全だと感じさせる。次に、じっくり話を聞いてくれる人に自分の経験を何度も話させる。最後に、自分が属する地域社会ともう一度つながりを持たせる」の手順が大事だというのも、ケアの側面から知っておくべきことだろうな。


2022年になってもなお、こういった状況から逃れられない人類。業の深さについて考えさせられた。