世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】クレイトン・クリステンセン「ジョブ理論」

今年7冊目読了。ハーバード・ビジネススクール教授にして、最も影響力のある経営思想家トップ50の2011年と2013年の1位に選出された筆者が、イノベーションを予測可能にする消費のメカニズムを解明する一冊。


畏敬する先達がSNSで絶賛していたので読んだら、なるほど間違いない。これは絶賛したくなる。さすがの慧眼だ、と圧倒され続ける。


そもそもの経済活動について「イノベーションに必要なのは、ものの見方を変える事。大事なのはプログレス(進歩)であって、プロダクト(商品)ではない」「私たちが商品を買うということは基本的に、なんらかのジョブを片付けるために何かを『雇用』するということ。その商品がジョブをうまく片づけてくれたら、後日、同じジョブが発生したときに同じ商品を雇用するだろう。ジョブの片づけ方に不満があれば、その商品を『解雇』し、次回には別の何かを雇用するはずだ」とするのは、びっくりな発想の転換


人が陥りやすい罠として「原因の発見を最重視して取り組むイノベーターの数は多くない」「データは顧客と商品そのものにフォーカスしていて、その商品が顧客のジョブをどんなふうに解決しているかについては教えてくれない」「自分のジョブしか見えなくなるのは、①能動的データと受動的データの誤謬:現実の乱雑な体験のなかから意味を見いだすには、ストーリーを通じてジョブを明らかにするしかないのに、情報に反応する習性がある②見かけ上の成長の誤謬:他社商品を模倣して対象顧客を広げてプロダクトの種類を増やし、最初の成功をもたらしたジョブへのフォーカスを失う③確証データの誤謬:人間はデータやメッセージを自分が信じたいように適合させてしまう」は、普通そうなるよね、という感じがするが、それではいけない、とする。


では、どうすればよいのか。「ジョブの定義は『ある特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩』」「ジョブを理解するには、苦心している人を頭の中で動画撮影してみる。①その人が成し遂げようとしている進歩は何か②苦心している状況は何か③進歩を阻む障害物は何か④不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか⑤その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か」「ジョブのレンズを通して顧客を見ると、競うべき本当の相手が見えてくる。それまでは思いもしなかった他分野の商品がライバルとなることも多い」と提言。
具体的に考案するには「①顧客は進歩を遂げるためにどのような体験を求めているか②どのような障害を取り除かなくてはならないか③社会的、感情的、機能的側面については何を考慮すべきか」とし、ジョブを明らかにする方法としては「①生活に身近なジョブを探す②無消費と競争する③間に合わせの対処策④できれば避けたいこと⑤意外な使われ方」「顧客が生活に引き入れたいと望むプロダクト/サービスを目指すのなら、顧客が求めている進歩の機能面だけでなく、社会的・感情的な側面も深く掘り下げ、水平方面にも広く目を向けなければならない」「雇用してもらうための鍵は、顧客の生活のストーリーを細かく理解し、顧客自身がことばにして要求できるものよりはるかに優れた解決策をデザインできるようになること」を推奨する。


人の行動の特性として「だいたいは、人がプロダクトを初めて買う瞬間のみを追跡する。しかし、同じくらい重要なもうひとつの瞬間は、実際にそのプロダクトを消費するときだ」「なんらかの選択を行う瞬間には、常に『新しい解決策に乗り換えようとする力』と『変化に反対する力』の相反する力が綱引きをしている」のあたりの指摘は頷かされる。


実際に企業はどうすべきか。「いまや企業は、自社製品がどんなジョブを解決するかだけではなく、自社製品を雇用すべきでないのはどういう状況かを消費者に伝達する方法を考えなければならなくなった」「片づけるべきジョブをプロセスの中心に据えることで、組織を何に向けて最適化するかという視点がそっくり変わっていく」「①ジョブの特定②求められる大権の構築③ジョブ中心の統合、というステップを踏んでいくべき」「学んだことをベースに、顧客が解決しようとしているジョブに即した形でプロセスをどんどん改良していく」は、言うは易く行うは難し…


ジョブを重視した組織のメリットは「①明確な目的を共有し、意志決定を分散できる②重要なことに資源を配分し、重要でないことからは資源を解放できる③社員のやる気を引き出し、彼らが好きなことをできるような文化を作り上げる④顧客の進歩、社員の貢献、意欲など、重要な点を測定できる」「社員が共通のゴールに向かってともに働くことが企業文化の基盤をなす。片づけるべきジョブに一丸となって取り組めば、ジョブを支える文化が出現し、ジョブとの深い結びつきを保てる」「片づけられるべきジョブに最適化されたブランドは、顧客にジョブが発生するたびに彼らの心に真っ先に浮かぶ」と断言する。こんな組織なら素晴らしいのだろうが…


実践しないと、意味がない。それを痛感させられる良書。まずは、自分のとらえるレンズを入れ替えてみることから意識したい。