世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】シーナ・アイエンガー「選択の科学」

今年105冊目読了。コロンビア大学ビジネススクール教授の著者が、「選択は芸術」という価値観を特別講義で解説した内容に基づいた一冊。


心理学を少し学ぶと必ず出てくる「24種類のジャムと6種類のジャムを並べた時、どちらが売れるか?(正解は後者)」という実験を、なんとスタンフォード大学大学院生時代に行ったという筆者。その彼女が語る「選択」の意味、重要性については、非常に興味深く読める。


そもそも、選択とは何か。「自分自身や、自分の置かれた環境を、自分の力で変える能力」「本当の意味で選択を行うには、洗濯する能力があり、かつ外部の力に選択を阻止されずにいられるという、両方の条件が満たされなければならない」と定義したうえで「人間は、世界に対する見方を変えることで、選択を生み出す能力を持っている」と述べ「選択が何であるかを知り、洗濯が当然の権利だという信念を持たなくてはならない。わたしたちは物語を分かち合うことで、想像と言語の中で選択を活かし続けることができる」と断言する。


人間の陥りやすい行動の罠として「選択肢を増やしても何の利益も得られない状況でさえ、私たちは本能的に選択の幅を拡大しようとする」「状況を自分でコントロールしたいという欲求が、それ自体、強力な動機になりうる。不都合を招くことがわかっていても、その衝動に突き動かされてしまう」「だれしもが、自分の人生は自分でコントロールしたいと思っている。だが人がコントロールというものをどう理解しているかは、その人がどのような物語を伝えられ、どのような信念を持つようになったかによって決まる」「他人との共通項は見つけたいが、まねっこはしたくない。この欲求はあまりにも強いため、ときにわたしたちは誤った印象を与えないように、本心では望んでいない行動をとることさえある」「わたしたちは自分の信念と行動の矛盾に気づくとき、時間を巻き戻して行動を取り消すことはできないため、信念の方を、行動と一致するように変えるのだ」などを挙げる。


選択に関連する人間の特性としては「人々が自分に与えられていると感じていた選択の自由度が、かれらが望ましいと考えていた自由度の大きさに一致していた」「誘惑の対象から気をそらす方法を意識的に用いれば、驚くべき効果が得られる」「あなた方は自分の行動の背後にある意図がわかっているから、自分の行動を正当と考える。でも人は、自分の見るものだけに反応する」「おおむね7つを超える幅広い選択肢に、私たちは混乱し、圧倒されて、お手上げ状態になる」「人々を難しい選択から解放しようとして、選択権を取り上げれば、逆に大きな反発を招きかねない」「選択が、最善の解決策を見つける手段ではなく、問題をはぐらかすために口実として用いられるとき、わたしたちは道を踏み外したことを知る」などと述べる。


どのようにすればよいか、については「自分の行った選択を最大限に活かすには、都合の悪いことも進んで受け入れなくてはならない」「本当に重要なことだけに目を向ければ、長い目で見ればどうということのない決定にとらわれることもなくなる。ここで節約した労力を、熟慮システムに回せばいい」「わたしたちはだれしも、意思決定バイアスにとらわれやすいが、用心とねばり強さ、それに健全な猜疑心があれば、自衛は可能」「選択肢を残しておくにはとかく代償が伴うことを、肝に銘じる」「専門知識を増やして、認知能力や許容量の限界を押し広げ、選択から最小限の労力で最大限の効果を引き出す」「選択の判断の一端を他人に委ねる、あるいは自分の行動に制約を加えることで、選択のプロセスを自分に有利に変える」ということを薦める。


「東洋の文化に属する人は、人生を個人の意向というよりは、義務という観点から理解していることが多い」は納得できるし、「もしかしたら、わたしたちはみな、完璧になろうと頑張りすぎずに、愛する者たちとともに過ごす喜びに、もっと目を向けるべきなのかもしれない」は、現代社会への鋭い批判で正鵠を射ていると感じる。「選択に制約を課されることで、逆に本当に大切なことにだけ目を向け、選択しやすくなる。限られた選択肢を最大限生かすために、創造性を発揮することもまた楽しい」も、本質を喝破している。


そして、この本の非常に優れているスタンスは「本書で示される見解や提案、結論に賛成していただけなくても構わない。こうした問題についてじっくり考えてみるだけでも、情報に基づく確かな決定を行う、その一助になるはずだ」と明言しているところ。これは、なかなかできるものではない。


ハードカバーで、なかなか読みごたえがあった。その主張には驚くばかりだが、筆者が全盲であるということも驚きだ。その洞察力に、感服するしかない。