世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】井上智洋「人工知能と経済の未来」

今年104冊目読了。駒澤大学経済学部講師の筆者が、AIの進化による2030年の雇用大崩壊という経済変革を予測する一冊。


特化型人工知能(ある能力に特化した対応のみができる)ではなく、汎用人工知能が実現すると「あらゆる人間の労働が汎用人工知能とそれを搭載したロボットなどの機械に代替され、経済構造が劇的に転換する」と述べる。具体的には「多くの労働は汎用AI・ロボットによって行われるので、人間は労働から解放され、レジャーとしての仕事、楽しみとしての仕事は残るだろうが、賃金を得るための労働はあらかたなくなる」ため、「AIの発達によって雇用を奪われ収入源を絶たれる人が増えてくれば、生活保護の適用対象を拡大しなければならなくなり、問題点の多い生活保護ベーシックインカムに取って代わられる」すなわち「労働者階級は賃金が得られなくなることにより消滅し、資本家階級がすべてを手にすることで資本主義が終焉する」と予測する。


AIの現状の影響については「現在のところ雇用破壊が進んでいるのは、頭脳労働でも肉体労働でもなく、中間所得層が主に従事する事務労働で、技術的失業をこうむった労働者は、より低賃金の肉体労働やより高賃金の頭脳労働の方に移動する」とし、AIそのものについては「人間が与えた範囲でしか欲望や感性を持ちえない」「AIがたとえ人工の身体であるロボットに搭載されたとしても、その身体は生命であるところの人間のものとは異なっている。そうであるならば、そのAI・ロボットは人間が獲得しているような身体知を自ら発見し獲得することはできない」とする。


AIの経済への影響については「AIは、①生産の効率性を向上させる②人間の労働の大部分を代替し経済構造を変革する、という効果を通じて経済成長を促進する」「世の中の多くの技術・機械と労働者の関係は完全に代替的というわけではなく、ほどほどに代替的という関係にある。したがって、新しい技術は多くの場合、ある職業を根こそぎ消滅させるようりも、雇用を一定程度減少させるという効果を持つ。特化型AIについても同様」「特化型AIが雇用に与えるインパクトは、マクロ経済政策が適切に実施され、労働移動が速やかになされている限り、失業がとめどなく増大するような時代には至らない」としつつ「ロボットの価格が幾らでも安くなる可能性があるのに対し、人間の賃金は最低賃金未満にはならない。最低賃金という下限に突き当たったとき、もはや賃金下落による雇用の増大は期待できなくなる」と警告する。


そして、機械に奪われにくい仕事として「クリエイティビティ系、マネジメント系、ホスピタリティ系はなくならない。いずれも他人との感覚の通有性を必要とする」ため、と考える。


特化型人工知能についての予測は非常に共感できるが、果たして汎用人工知能がどこまでできるのか、そして身体を持たない知識というものがどのレベルなのか。このへんについては、経済学者ゆえに専門外なのだろう、どうも腑に落ちない。そこを抜きにして考えると、なかなか納得できる。「自分が必要とされているか否かで悩むことは近代人特有の病であり、資本主義がもたらした価値転倒の産物。しかも、価値転倒が起きたことすら意識できないくらいに、私たちは有用性を重んじるような世界に慣れ親しんでしまっている」は、本当にそのとおりだな、と思った。


まぁまぁ面白かった。が、その域を出ないかな。新書だから、ハードルは低いのだが。