世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】難波猛「働かないおじさん問題のトリセツ」

今年5冊目読了。人事コンサルタントの筆者が、キャリア論・心理学に基づいたメソッドを駆使し、マンダのメカニズムと対応策を解き明かす一冊。


実は、働かないおじさんは「故意にサボってある人ではなく、真面目に頑張っているが『うまく働けていない』ミドルシニアが中心」とし、そのタイプを「①成果のミスマッチ②意欲のミスマッチ③期待のミスマッチ④コミュニケーションコストの問題⑤心理的コストの問題⑥時間的コストの問題」に分類する。
働かないおじさんが発生するのは「①経営環境の変化②社会、法律の変化③働く期間の変化」によるもので、さらに「本人、上司、人事がそれぞれ『どうせなら、良い状態であってほしい』と願いつつ『最後は相手次第で、自分ではどうにもならない』と責任をなすり合っていては先に進めない」状態がデッドロックを生んでいる、とする。


なんとかするには「成果を上げる、期待を下げる、関係を解消する」の3つの選択を提言。パフォーマンスを上げるために必要不可欠な三箇条としては「WILL:本人の意思や欲求や価値観。MUST:周囲からの期待役割やニーズ。CAN:本人の能力、スキル、強み」


「『予期せぬ変化』や『望まない変化』が対岸の火事ではなくなりつつあるという現実を、本人もしっかり理解しておく」「自分自身をバージョンアップし続けることを諦めてしまった場合、数年で『働かないおじさん』となってしまう」


上司側の処方箋として述べられる「ネガティブフィードバックをうまく行うには、①合意を得る②不協和をつくる③話すより聴く(傾聴)④行動と事実について話す(ファクトフルネス)⑤諦める(明らかに見極める)」「継続的な改善を考えると、日々接している上司の真剣なコミュニケーションは不可欠」「『できない理由』は、気合と根性で何とかするのではなく、『やらない目的』として考える」「フィードバックをしなければ、相手の『成長機会』と『気づきの機会』を奪うことになってしまう」は、かなり汎用性が高く、使えそうだ。


本人はどうすればいいか。「『どういう人生や働き方が本人にとって理想的なのか』は、結局のところ、自分にしかわからない」「本人が『ありたい姿』を考えることが最初で最大のポイント」ということを踏まえる。
その上で「具体的には、『否定(本人がやること:情報収集)』『抵抗(本人がやること:気持ちの吐き出しと言語化)』『探求(本人がやること:ワクワクする計画)』『決意(本人がやること:承認欲求、自己実現欲求の仕組み化・習慣化)』の4つのフェーズを経て、最終的には変化を受け入れ、行動が変わっていく」ことを目指すべき、とする。


巻末の、田中研之輔氏との対談も「今の足元や目先の仕事だけをみるのではなく、本当に自分の一生や生涯全体を見つめて、そこから逆算して考えた上で『これからどうしたいか』と問いかける」「『社会や会社や世の中に、自分が何を残したいのか』『自分がどうありたいのか』といった問いかけをじっくりやってみる」のあたりは、心に響く。
また、ミドルシニアが輝くために「自分をメディア化する。SNSを使って、今まで自分の中にインプットしていたことを言語化してアウトプットする」「思考停止にならない」「まずは小さな変化を自分でつくってみる」などの提言は、実に胸が痛い…


とはいえ「『自分の考えたキャリアを自分で実現できる時代』『諸具合現役で、会社の枠組みに縛られず働ける時代』」である以上、「『変化し続ける能力』や『学び続ける意欲』は、これからの時代はますます重要になる」のは間違いない。そこで、3つの仕事観「内因的仕事観・功利的仕事観・規範的仕事観」を大事にしながら、自分で決めた行動を習慣化するために「『ゴールからの逆算』『行動のルーティン化』『行動記録の可視化』」に取り組みたい。


筆者の熱い「いつか『働かないおじさん』という言葉自体が死語となり、本書や私の仕事が不要になる姿こそが理想の状態」というメッセージをしっかり受け止め、まず、自分が働いていきたいと思わされる良書だ。