世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】三宅香帆「考察する若者たち」

今年66冊目読了。京都市立芸術大学非常勤講師にして文芸評論家の筆者が、昭和・平成の「批評」から令和は「考察」に変化していることを掘り下げる一冊。

筆者の著書はどれもアタリであり、現代の若者の心理・行動を学ぶために読んでみたら、やはり気づきが多かった。

前提として、筆者は「いまの若い世代が、つい自分の行動にも、求められる、意味のある、正しそうな『最適解』を求めてしまう」と指摘。

考察ドラマのプロセスを「①作者が、作品に謎とヒントを仕掛ける②視聴者はヒントを見つけ、謎解きの材料にして、シェアする③作品内で、謎解きが行われる」とし、「昨今の『考察』文化で面白いのは、決してミステリジャンルにカテゴライズされないであろう作品すら、SNS上で『考察』が盛り上がるところ」と分析し、「考察:『正解』がある=報われるゴールがある」「批評:『正解』がない=報われるゴールがない」と指摘する。
また、「萌え:好き(瞬間的)」に対し、「推し:好き+行動する対象(継続的)」だとして「『推し』は、自分と対象の『理想』が重なっている、と信じられるときに生まれる」も、非常に面白い。

さらに、「『転生』では『開始で得るスペックが有利なものなら、報われる』という前提に立ち、「『ループ』では『過程で選ぶオプションを間違えなければ、報われる』という前提に立つ」とし「転生ものの物語の流行は、『違うスペックに生まれてきたかった』というガチャ的な欲望をもつ人々に支えられているのではないか」と考察する。
そのほかにも「SNSは『フォロワー』や『いいね』の数が見えやすい=投稿の『報われポイント』がある」「掲示板は『フォロワー』や『いいね』の数が見えない=投稿の『報われポイント』がない」の指摘はなるほど納得だ。

なぜ、このようなことになったのか。筆者は「報われたい。それこそが、令和のヒットコンテンツに共通する感情」「令和のヒットコンテンツは、すべてインターネットのプラットフォームアルゴリズムのなかで生まれたもの」と、その原因に斬り込む。
そのうえで「情報プラットフォームのアルゴリズムこそが、私たちの『感情の満足だけじゃなくて、ゴールで報われるという満足もほしい』という欲求を高めている」「私たちはプラットフォームのなかで、どんどん自分らしさを消して『正解に近い最適解』を出すことを求められている」「プラットフォームは人びとを過激にするのではなく、もともと過激な物語を欲している人びとに対して報酬としての情報を与えているだけ。過激な情報は彼らにとって『報われポイント』なのだ」と分析。
結果として、若者たちの思考・行動が変容し「行動の報酬、つまり『報われポイント』が見えていたほうが安心して行動に移せる。実体験に対して報われ度が見えるものに、若者の手は伸びる」「考察文化とAIは、とても相性が良い。なぜなら問いを発すると自分が納得できる『正解』を提示してくれる」「考察=語り手の個性は必要ない、批評=語り手の個性が必要」「オンリーワンであることなんて、自分らしさなんて、生きづらくなるくらいなら、むしろないほうがいい。生きづらくないほうが、絶対に、いい。独自性よりもラベリングのほうがずっと欲しい」となった、と洞察する。

しかし、筆者はその状況を危惧し「アルゴリズムに評価されない、数値に変換されない、そういう自分の欲望や解釈や好きなものこそ、自分自身の固有性を教えてくれる」「最適ではないかもしれない。正解ではないかもしれない。しかし自分が解きたい問いを見つけると、世界は暇じゃなくなって、楽しくなる」「やりたいことに向かっても、基本的にやりたいことはやれないことが多い。やりたいことなんか、ないほうがきっと失敗は少ない。それでも、自分の感情や欲望は抑圧しすぎないほうが、人生は楽しい。報われなくても、後悔が増えたとしても」「自分が解きたい謎を探すことは、誰かのつくった謎を解くことよりもずっと時間がかかる。おすすめされない欲望は、見つけるまで時間がかかる。おすすめされた欲望のほうが、すぐ手に入る。でも、大切なことはたいてい、時間がかかる」と訴える。
筆者は、報われ最適化から抜け出すコツとして「①本や雑誌を読む②キャラじゃないことをやってみる③一人で夜更かししてみる④感動をじっくりと言葉にしてみる⑤他人に簡単に憧れてみる」と提言する。

その他、なるほどなぁと感じたのは「界隈=フラット、正しさがない。親子=ヒエラルキー、正しさがある」「感動や感情は具体的な形のあるものとして残らないけれど、写真はデータとして残る」「仕事に求めるものが『やりがい』から『成長』『安定』に変化しているのは、『報われやすい』から」のあたり。

平易な新書ながら、中身は非常に重厚。ぜひ、一読をお薦めしたい。