世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】斉藤徹「だから僕たちは、組織を変えていける」

今年98冊目読了。起業家、経営学者にして、ビジネス・ブレークスルー大学教授の筆者が、やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかたを説く一冊。


畏敬する先達が薦めていたので読んでみたら、なるほどこれは薦められることが納得だ。組織論を様々な方向からまとめ上げたらこうなるのか、という整理力がすごい。


本の目的を「知識社会にふさわしい組織のあり方を解き、変えるメソッドとして最新の組織論を体系化すること。組織の経済至上主義を変えて人々が幸せに生き、持続可能な社会を築くための組織基盤をつくること」と筆者は定義。


コロナ禍を受けての働く価値観の変化を「①能力発揮成果創出主義から、人の役に立つ自分らしさへ②会社の忠誠心アップかつ、副業・起業への経験意欲アップ③将来のありたい姿を再定義しはじめている④将来への不安は高いものの、人生の充実度は高い」とし、「ソーシャルシフトからはじまった価値観の変容が、コロナショックで一気に加速し、起業にとって、目の前にある深刻な課題になった。重要なのは、多様な社員一人ひとりと深いエンゲージメントを築き『自走する組織』に生まれ変わること」と分析。これまでの変化の経緯とリーダーシップを「機械やロボットは、人の手足を代替して『工業社会』を支えた。コンピュータは、人の記憶や計算能力を代替して『知識社会』に導いた。今、人間に残された価値は『暗黙知』であり『感性』であり『意志』である。『見えないもの』を深く理解できないと、人の心は動かない。組織は機能しない。今こそ、マネジメントは人間性に回帰すべき」「傑出したリーダーは、行動を促す前に、情熱をこめて、その行動の意味を説いていた。彼らの言葉は、すべて『WHY』からはじまっていた」と捉えるあたりは秀逸。


知識社会における3つの組織モデルとして「①デジタルシフト:顧客の幸せを探求し、常に新しい価値を生み出す『学習する組織』②ソーシャルシフト:社会の幸せを探求し、持続可能な繁栄をわかちあう『共感する組織』③ライフシフト:社員の幸せを探求し、多様な人が自走して協働する『自走する組織』」は納得できるし、旧来の「『過剰な警戒心』や『リスクゼロを求める思考』が、実は大きな危機や組織の閉塞感を生み出している」というのも同意。


心理的安全性を生み出すプロセスとして「共感デザイン:自然体の自分に戻る、他者を人間として尊重する、本音で話せる間柄になる」「「価値デザイン:意識を価値創造に向ける、建設的に第三者を共創する、場に安心感を生む」とし、そのためにリーダーができることを7つに分け「①直接話のできる、親しみやすい人になる②現在持っている知識の限界を認める③自分もよく間違うことを積極的に示す④参加を促す⑤失敗は学習する機会であることを強調する⑥具体的な言葉を使う⑦境界(規範)をもうけ、その意味を伝える」と述べる。「組織が社会的使命を追及すれば、社員もおのずと精神的なゴールを目指すようになる。両者は仕事の動機づけを通じて、深く結びついている」は確かにそのとおり。


また、人間の行動特性についても「脳科学は、人間の脳が『他者との共生』を志向しており、金銭的な報酬よりも社会的報酬を欲する器官であることを明らかにしている。人を愛し、人のためにつくすことは、本来、大きな喜びをもたらすものだ」「人間は、もともと内なる欲求から課題に取り組む性質を持っており、それ自体に喜びや充実感を感じて行動する生き物である。外部から人をコントロールしようとすると、その内なる動機が失われてしまう」「人間は『自分でやりたい』『能力を発揮したい』『人々といい関係を持ちたい』という3つの心理的欲求が満たされると、動機づけられ、生産的になり、幸福を感じる」と言及する


では、具体的にどうすべきか。筆者は、成功循環のために「①『しなくちゃ』を解き放ち、自律性をとりもどす②『しよう・したい』の環境をつくり、有能感を満たす③対話を通じて、信頼関係を育む」を提唱。リーダーの変革アクションとしては「①まず、あなたが一歩を踏み出そう②自分のことを正しく認識しよう③影響が届くところからはじめよう④小さな成功を育てていこう⑤反対者の信頼を得る努力をしよう⑥常にチームの希望でいよう⑦共感をつなぎ、影響の輪を広げよう」と指摘する。


筆者が時代の変化として「工業社会において、産業の根幹を支えていたのは、施設をつくるためのお金と、それを動かすためのエネルギー。人の繋がりが価値を生む知識社会では、アイデアを生む人のつながり、つながりをつくる情報のプラットフォーム、そして人を動かす心理的エネルギーが産業の根幹となる」と述べているあたりは参考にしたい。全体的に、既存の理論ではあるものの、それを綺麗にまとめ直したらこうなるのか、ということを見せられた。これは良書だ。