世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】出口治明「自分の頭で考える日本の論点」

今年17冊目読了。ライフネット生命の創業者にして、立命館アジア太平洋大学学長の筆者が、日本の抱える問題点について「自分で考える」ことを促す一冊。


新書としては驚くくらいの分厚さに、良質な問いがいくつも掲載されている。読むというより、実際に自分で思考してみることの大切さを感じさせられる。


世界の捉え方については「物事を考えるとき、大切にしているのは『タテ・ヨコ・算数』。タテ、すなわち昔の歴史を知り、ヨコ、すなわち世界がどうなっているかを知り、それを算数すなわち数字・ファクト・ロジックで裏付けていく。日頃からそのような訓練を積み重ねていく」「歴史はジグザグに動く。人間社会は、いつの時代にあっても分断と協調、2つの方向に振り子が揺れている。そして、分断の方が絵になる。しかし、中長期的に見れば、主流を占めているのは連帯と協調の流れ」「近視眼的な考えは、ともすれば悲観論に陥りがち。しかし歴史的に見れば、悲観論は全敗している」「基本的人権はどのような社会であっても多数決とは関係なく、保障されなければいけない」と原理原則を提示。
そのうえで、「アイデアを出すためには脳に刺激を与える必要だがある。残業せずに効率的に仕事を切り上げて『人・本・旅』で脳を活性化させる」「適切な批判とは、互いに検証可能なデータ(数字・ファクト)を用いて、ロジックを積んで行うもの」という価値観を大事にすべきだ、と主張する。


新型コロナに関しては「ウィズコロナの時代とアフターコロナの時代の戦略を峻別することが、生き残りと新たな成長のための第一歩」「グローバリゼーションは、新型コロナによって停滞・中断しているだけで、終わったわけではない。人間は本来、移動するヒト(ホモ・モビリタス)なので、アフターコロナの段階に入れば、世界はふたたびグローバル化に向かう」という見通しに共感できる。実際、過去の感染症でも、それだけで暮らしぶりがまったく変わった、ということはなかったからな(部分的なバージョンアップはあれども)。


この混迷の世の中ですべきこととしては「利害関係者の話を聞いても公平かつ客観的な判断は下せない。専門家の意見を尊重して、リーダーの責任で判断する」「できることはできるときにしておいて、いざというときに備えるのが危機管理の鉄則」「AIが台頭する時代には『考える力』『探求する力』『問いを立てる力』が大切」などが大事だろうなぁ。


人間と社会の特性として「お金を稼げるかどうかに関係なく、人間は社会と触れ合って生きていくのが本来の性質」「経済成長がなければ人間は人間らしく生きていけない」「経済成長を支えるのは、結局のところ人口と生産性」「将来の公的年金保険を担保できるのは、事前の積立金ではなく経済成長だけ」のあたりも、納得できる。


日本の欠点と今後の展望については「日本が遅れたのは、いまだに戦後の製造業の工場モデルを引きずっているから」「憲法は国のあり方を定めているので、社会を憲法に合わせなければならない」「日本は先進国のなかでも際立って子育てがしにくい社会で、そのしわ寄せがすべて女性の側に押しつけられている」「イノベーションの原動力は『ダイバーシティ』と『高学歴』」「移民や難民にもっと門戸を広げることは、日本が先進国として国際社会で果たすべき責務で、社会が成長していくためには移民や難民の優れた能力を借りることが不可欠」「日本が衰退してきている原因のひとつは、不寛容な社会になっていること」「いま日本に必要なのは、同質化に染まらない『よそ者』『バカ者』『変人』」のあたり、なるほどなぁと感じさせられる。


最後に筆者が提言する考え方「①タテ・ヨコで考える②算数、すなわち数字・ファクト・ロジックで考える③外付けハードディスクを利用する④問題を分類する『自分の箱』を持つ⑤武器を持った『考える葦』になる⑥自分の半径1メートル圏内での行動で世界は変えられると知る⑦『人はみんな違って当たり前』だと考える⑧人の真贋は言行一致か否かで見極める⑨好き嫌いや全肯定・全否定で評価しない⑩常識は徹底的に疑う」は、確かにそのとおり。流されない自分を持てるかどうか。大いなる問いを投げかけてくれる良書だ。