世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】福田和也「保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである」

今年77冊目読了。批評家の筆者が、「コロナ禍の『名店再訪』から『保守再起動』へ」と称して、コロナ禍における名店とその取り組みを訪ね歩く一冊。


これも新聞で薦められていたので読んでみた。さらっと読めるし、お気に入りの店の紹介とも取れるが、「コロナ禍」という芯が一本通ることによって、社会批評に変わるのは筆者の腕なのだろう。


日本の価値観について「現世を肯定した上で、生身の人間として生きていく道は何なのかを考えることが、国学の開いた考え方である。ここに日本人の価値観が明確に現れている。日本人は彼方にあるもの、彼岸に価値を置くのではなく、自分たちが一緒に暮らしていく、今生きている人とのつながりを大切にし、その中で生きている価値を認めてきた。それを暮らしの中で育み、制度や宗教、文化として実現してきたのである」と言及。今の日本を憂える。
では、どうすべきか、については「自分たちが本当に暮らしたいように、自分たちが自分たちとして誇り高く暮らすにはどうすればいいかを考えることから始めればいい。そこから個々の中に日本の姿が立ち現れ、それが国が国であるための支えになる」「日本が生き残る道は、自分たちの目で物を見て、頭で考え、足で歩き出し、自分たちの歴史を回復する以外にない。この苦境の中、日本人の中に、少しずつ日本が芽生え、育ち始めているのではないか。そうした思いが新しい日本を育んでいくのではないか。そこから生まれる日本は自立した日本であるはずだ」と主張する。


飲兵衛である自分にとっては「日本のコロナ禍における『酒類提供禁止』によって生み出されるものは何もない。ただ日本の文化を破壊し、国民を疲弊させるだけだ。そもそも何故酒の提供を禁止するのか、明確な根拠が示されていない」「日本の酒類提供禁止は法律による命令ではなく、あくまでもお願いと指示に過ぎない。中途半端な措置で国民を分断させていることに対する責任を、政府はどう考えているのか。今必要なのは、安易に外国を真似るのではない。日本の根源と未来を見据えた政策である」は非常に同意できる(笑)。結局、コロナ禍を抜けてある程度宴席が戻ってきたことでも、交流の大事さは証明されたようなものだ。


日常と文化についての「飲食店は料理や酒を出して利益を得ているだけの存在ではない。店主はそれぞれ、こんなものを世の中に提供したいという志をもって開業し、それが支持されて繁盛店になり、何代も続く老舗になる。その営為は日本の伝統や文化と結びついている」「文化とは、持続的なものである。新しいものを、新しいものとして認識するためには、古きもの、それまでに過ぎ去ったものへの確かな認識が必要だ。文化の持続性が、最も強く発揮されるのが、日常生活である」「自分の生活スタイルを保持すること、そのために失われやすいものに対して、鋭敏に、かつ能動的に活動する精神を、保守と言う」のあたりの指摘は考えさせられる。確かにそうだなぁ。


その他、筆者の「右にならえではなく、自分の価値観を大切にする人間を私は信頼する」「日本がこれまで幾度も危機を乗り越えてきたエネルギーの芯になったのは、日本とは何かという問いだと思う。その問いについて常に考え続けることが日本を支える力になっていた」という主張も理解できる。卑近なところでは「さもしい話をするようだが、連載の取材でかかった飲食代は全て自腹である。それはそうだろう。編集部の金でさんざん飲み食いして、エールも何もないもんだ。店を応援するからには、自腹を切る。当然のことだ」のあたりも(苦笑)。


余談ながら、「日本の旅館で宿帳をつけるようになったのは、感染症のルートの特性や拡大防止のため」は知らなかった…勉強になった