世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】増田寛也、冨山和彦「地方消滅 創生戦略篇」

今年21冊目読了。岩手県知事、総務大臣を歴任した筆者と、産業再生機構設立時にCOOを務めた筆者の対談形式で、地方消滅にどう対応するかを対談する一冊。


2015年の本だが、コロナ禍にある2023年に読んでも、今なおそのインパクトは全く変わらない。


まず、立つべき観点として「人口減少は当面止まらない。地方は、安易に『人口増加』な『人口維持』『地域活性化』という言葉を口にするのではなく、人口が『減る』、さらには『急激に減る』ことを前提に将来を展望し、住民の生活の質を維持・向上していくための戦略を推進していく必要がある」「東京を上と見て、東京を目指す発想を改める時期にきている。地方が自らの地域に誇りを持ち、独自の文化を築くこと、そうした自立した地域が連携・協力していくことで、魅力ある日本にしていくことが、地方創生の道でもある」と述べるのは非常に理解できる。


そして「従来、経済が衰退すれば人手は余るというのが常識だった。しかし東北地方を筆頭に、現在の日本の地方では急激な人口減少が進んでいる。地方の企業が一生懸命、生産性を高めることで賃金を上げ、できるだけ正社員として安定雇用を行うことで働き手をひきつけるしかない」「パイがどんどん拡大して、その利益をいかに分配するか考えればよかった古き良き時代は終わり、これからは不利益の再分配、『痛みの再分配』をしなければいけない時代」「ローカルな大学はミニ東大を目指さないこと。そうすると絶対に東大には勝てない。むしろ、東大とどう差異化するかが課題」という現状認識も非常に至当と感じる。マインドセットを変えないといけないんだよな…


とはいえ、なぜ、地域を変えるのが難しいのか。「地域の企業や住民に等しく対応しなければならない行政にとって、『選択と集中』は難しい課題。であれば、民間の力を活用していくことを積極的に考えていくべき」「しっかり応援してもらえる『強い』産業や企業と、市場からの退出を促される『弱い』企業とのあいだにメリハリをつけることができるか、が地方を応援する際のカギ」はまさにそのとおりなのだが、そうはいかない状況も冷徹に述べる。
「生まれ変わるためには、一回『死んだ』ほうがいい。倒産状態にまで陥ると、さすがに取捨選択を強烈にやる」「データに基づいて論じながら解決策に近づくことが大事」「自分たちの主義主張に都合が悪いことを伝えないメディアの責任は重い」「自分たちは一ミリも変わらないという前提で、賃金だけ上げてくれとか、仕事をくれと言う。世界中が競争をしているわけだから、そんな甘い話はない」のあたりの指摘は、まさにそのとおり。


そして、低賃金でのスタグフレーションにあえぐ2023年の日本においても「地方消滅を防ぐために一番大事なことは、若い人たちが東京ではなく地方に残ろうと思えるだけの仕事の場を、せめて県庁所在地につくること」「最低賃金を上げるべき。その最低賃金を払えないような生産性の低い企業は市場から退出したほうがいい」「日本において低賃金・長時間労働は、何十年にもわたって続いてきた過剰雇用の時代において不景気をしのぐため、ある種の経営ツールになってきた。しかし今は人手不足の時代になったので、これから先はホワイトな企業を思いっきり応援するのが正しい」という指摘の重要性はむしろ増すばかりだ。「ローカル経済こそ、日本のGDPと雇用の約7割を占めている。地方創生というのは、ひいては『中央創生』につながる」「生産性を向上できれば、確実に賃金が増える。賃金が増えれば東京への人口流出が減り、若年層の出生率も上がり、人口減少の流れが止まる。地方の生産性向上こそが、地方消滅を食い止めると同時に日本全体の超長期的な持続性を高める一番の対策」という処方箋は、実践されていないのが実態…


とはいえ、希望も少しだけ述べてくれる。「日本はいま生産年齢人口が増えていく『人口ボーナス』期を経て、少子高齢化の『人口オーナス』期に入っていろんな問題が出ている。ただ、日本は高度成長期に公害をまき散らし、いわば『環境オーナス』に苦しんだ。それを今は環境制御技術を全世界に売れるくらいの『ボーナス』に切り替えることに成功した。だから、人口面でもオーナスをボーナスに切り替えられると期待したい。環境問題もそうだったように、単に昔に戻すのではなく、人工知能をはじめいろいろなイノベーションを起こすことで対応してほしい」と、前向きに捉えるしかないんだろうな…


余談ながら「言語能力というものは、まずはとにかく詰め込み、叩き込むしかない。ほとんど訓練の世界。上等な話はその先」というのはなかなか響いた。


全般的に、実務に即した中身で、非常に切実な問題が既に8年前に解決策まで導かれていたにも関わらず、コロナ禍ですら変われていないという事実に愕然とする。本当に、変わらないとまずいぞ、これは…