世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】読売新聞経済部「JRは生まれ変われるか」

今年17冊目読了。国鉄改革の功罪を、コロナ後の社会情勢から振り返る一冊。


コロナ後に輸送量が減ったJR。「採算性と公共性のはざまで、JRはどこへ向かおうとしているのか」という疑問を調べていくこの本は、昭和史が令和にどのように影響をしているのか、という内容だ。


そもそも鉄道網について「全国の鉄道網は国鉄の時代から、都心部や新幹線の収益で地方ローカル線の赤字を支える『内部補助』で成り立ってきた。民営化の際、採算の悪い路線の多くをバス転換などで切り離しており、この仕組みを続けられると想定していた。内部補助は、一定以上の人口が前提となっていた」という状況で「分割民営化後30年以上にわたり、JR本州三社が安定的な成長を遂げ、運賃値上げをしないで済んだのは、日本でデフレが続いていたことがプラスに働いたから」という僥倖でしかないという指摘は確かにそのとおり。
他方「政治からの圧力は避けたい。一方で、政治に気を配らなければ事業は成り立たない。JRは政治に翻弄される宿命を持つ」というのもまた真実。


国鉄分割民営化について「国鉄改革の議論は、単独か分割かの命題を巡る戦いだった。採算性を高めるため、どんぶり勘定をやめて目の行き届く範囲で管理する。地域に合わせた列車運行や運賃設定をする。発想は妥当と言えた。ただ、経営安定基金を配分して手当てをしたはずのJR北海道、四国の経営悪化に歯止めがかからないことは、想定外だった」と一定の評価はするものの「国鉄改革は全体で観れば成功した。だが、思いがけない低金利や想定を超えた人口減少で、最もしわ寄せが行ったのがJR北海道だった」「JRの誤算は想定をはるかに上回る地方の人口減少が契機だった。令和の現在から振り返れば凡庸な理由かもしれない。今に影を落としているのは、昭和の時代に多くの国民が夢想だにしなかった事態である」という現実が令和になって立ちはだかっている。
さらなる人口減少に向き合う日本にとって「ローカル線の最大の問題は、鉄道会社、自治体、国がどう負担を分かち合うかだ」「どんな未来を選ぶか。沿線自治体や住民の判断に委ねられるところが大きい」という指摘は重い。安易に予算をつけられないのは人口減少もそうだが「鉄道局の予算が少ないのは、鉄道は道路に比べ、新設するべき路線が少なく、成熟産業であることも一因だが、国鉄時代の巨額債務の影響が大きい。国民に負担を求めざるをえなかった-。この重い反省こそが、鉄道局の予算の少なさにつながっている」というのも一因なのだろうな…


今後、鉄道はどうなるのか。「鉄道のそもそもの存在意義は、移動サービスを提供することだ。地域に適した交通モードは何か、将来を考えて地元とともに考えていく必要がある」「鉄道会社の役割は時代とともに変化している。地域を元気にするための社会インフラを提供するのが役割だ。その一つが鉄道事業だが、もう一つの大きな柱は都市開発や不動産開発」のあたりは『言うは易く行うは難し』。開発しようにも地域が人口減少するのだから、本当に工夫しないと難しいんだろうな…