世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山口真由「挫折からのキャリア論」

今年16冊目読了。東大法学部首席卒業、財務省官僚、弁護士、ハーバード大学ロースクールという一見華やかな経歴を持つ筆者が、「すべての失敗は未来の自分へのプレゼントになる」と、レジリエントに生きることを主張する一冊。


畏友が薦めていたので読んでみたら、なるほどこれは良書だ。過去の失敗を「あめ玉」と喩えるところは少し独特だが、自らの失敗をさらけ出して向き合う姿勢はすごい。


自分の失敗から、先人として「部下や後輩を育成する目的で、上の世代は自分の『弱さ』を下の世代に向けてもっと開示しなくてはならない。キャリアの駆け出しの頃の、恥ずかしく、悔しい経験を、できるだけ詳しく、当時の感情も含めて話す。ベテランになってからの失敗談も同様に、武勇伝や自慢話ではなく、上から目線の説教でもなく、等身大の人間の話として-」という姿勢は頭が下がる。


筆者は優秀であるが故に「できるだけ早く仕事で頭角を現して、自分にとっての『王道』、つまり『自分が理想とする、物事が進むべき正当な道』に戻りたいともがいていた」「私は『他人による評価』に自己評価を連動させていた」と囚われていた。
しかし、「自分の得意とする部分で評価をもらって、そこから横に力を伸ばしていくことは可能」「『自分ができない』と思っていたけど、向いている分野と向いていない分野がある、というだけで、自分が根本的に劣った人間だというわけではなかった」「私は自分が全方位的に優秀だと思い込んで、過剰に盛って生きてきたけれど、決定的な強みを活かすのが私にとっての正解なんだ」ということに気づいたところが秀逸だが、そこに至る苦闘はなかなか壮絶だ…


挫折を乗り越えた筆者のスタンス「ある年齢までに結婚するというイメージは、親の世代や社会による刷り込みである部分が大きい。そこからはみ出してもなお、人生の中で、自分の思いを実現することはできる」「傷ついた経験は取っておいた方が、後々、自分を鼓舞できるときに使える」「永遠にツキが回ってこないことはない。今はすべてがうまく回らない時期。だけど、ここをやり過ごせば、すべてのことが好循環になる時期が来る」は、非常に参考になるし、「つらい経験と向き合うときには、まず『書く』。そのうえで、適切な相手に適切なタイミングで話す。それは相手のためにもなるし、自分のためにもなる」は、自分自身使ってみたい。だが、体験したくないのは「生きれば生きるほど赤字額が増えていくという状態は、人の精神をむしばむ」の部分だな…


余談ながら、スティーブン・スピルバーグの「あなたの理性はあなたが何をすべきかを叫び、直感はあなたが何をできるかをささやく。直感に耳を澄ませなさい。それ以上にあなたを形作るものはないのだから」という言葉こそがこの本の真髄だろうと感じた。読みやすく、一読をお勧めしたい。