世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】坂口孝則「買い負ける日本」

今年15冊目読了。調達・購買コンサルタントの筆者が、日本の絶望的なモノ不足と、機能不全に陥った日本企業の惨状を描き出す一冊。


衝撃的なタイトルだけでなく、現実が非常に厳しいことを痛感せざるを得ない。


日本が素晴らしいなどという思い込みは「国内は、少量ゆえの非効率化が目立つ」「とにかく日本向けはめんどくさい。外国だったら信じられないレベルの要求をする。他の国に次々に売れていくのに、日本だけに特別な対応はしない」という指摘が打ち砕いてしまう。


そして、失われた30年によって「消費者にとって安い方がいいに違いない。ただし結局は程度問題だ。価値を認めるべきは認め、価格を上げるべきは上げる。その当然の値上げががなく、ひたすら低価格志向を重ねれば日本は世界から置き去りにされていく」「現在では、働く人材が、働く国を選んでいる。良い人材を各国が争って誘致している。その状況がわからず待遇改善が図られなければ日本から人材が流れ、日本は堕ちていく」という状況を客観的に突きつけられると、胸が痛い…


日本企業凋落の理由を「GDPの相対的下落、購買力平価の低下、付加価値あるものを販売できるか、トップ企業の没落と発言力の低下」
「日本の優先度はもはや高くなくなった。米国から日本に寄るよりも、早く中国に戻して次の便として出港したほうが儲かる」「ずっと安い商品しか買わない日本が、物量も少ない。でも時間はかかる。そりゃ、そういう国は選ばない」「日本は国家としての戦略が欠けている。民間に任せすぎている」と、厳しく指摘。実例を出されると、ぐうの音も出ない…


さらに、日本の問題点を「日本は裾野の広いサプライチェーン構造。これが『納品してもらって当然』と買い手側の慢心を呼び、仕入れ先に負担を求め、そして仕入先の絶大な協力を前提とする『すり合わせ』を期待し、『阿吽の呼吸』で事業を進める。さらに多層構造は、下の仕入先の顔を見えなくする。声が届かず、さらにトップ同士の関係が希薄になっていく」「日本企業の目的は品質追求ではなく、既存維持・前例踏襲、ゼロからの見直しを避ける」「全員参加の姿勢は、そのうち『誰も責任を取らない』と同義になっていく。誰も責任を取らないので、なんとなく全員が責任を取る。だから、全員がとりあえず『知っておくこと』が重要になった」と触れられると、本当に頭を垂れるしかできない。


提言として、多層構造の問題に対しては「仕入先への早期発注を。下位仕入先へ積極的な関与と情報開示を。日本企業トップは仕入先トップと積極的な交渉を。」品質追求の問題点に対しては「品質を売るのではなく価値の販売を。OR設計の徹底を。コスト評価の徹底を。」全員参加主義・全員納得主義に対しては「結果ではなく手法と結果幅の合意を。リスクを取った行動を。横並びを脱する企業戦略を。自己を否定し新たなビジネスモデルを。人材の流動化と賃上げを」という主張は非常に納得できる。


失われた30年の恐ろしさを、筆者は「人びとは、大きな変化には気づく。しかし、ゆっくりとした変化にはなかなか実感を持ちにくい」の言葉で抉っている。本当に、このままではいけない。危機感を強く覚えさせてくれる(苦しいけれども)良書だ。