世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】永濱利廣「日本病」

今年25冊目読了。第一生命経済研究所の首席エコノミストである筆者が、なぜ給料と物価は安いままなのか、を解き明かしていく一冊。


「日本はバブル崩壊以降、低所得・低物価・低金利・低成長の『4低』時代に突入し、30年後の今なお日本病から抜け出せていない」と指摘。その理由を「債務過剰になると、モノやサービスにお金を使う前に、まず借金を返済しなければならない。稼いだお金が借金返済に回ってしまうため消費に結びつかず、消費が低迷していく。モノが売れないので賃金が上がらない。賃金が上がらないので消費を控える-こうして、デフレに陥っていった」と説く。
実際、この不景気について「『明日は今日よりも生活が苦しくなるかもしれない』という不安があれば、将来のためにおカネをとっておこうと過剰に貯蓄をしてしまう。企業も従業員の給与や設備投資に回すより現預金を増やし、リスクを撮るよりも小さく安定しよう-これがデフレマインド。『景気は気から』というが、日本に根付いたこの心理が、デフレ脱却の大きな妨げになっている」「デフレ下では、できるだけ積極的な経営を行わず、内向きに経費削減やリストラなどで数字を安定させる方が評価されやすい。それゆえ日本では、なかなか前向きな経営に踏み切らない経営者が増えてしまった」と言われると、本当にそうだなぁと思う。
デフレ対策については「リーマン・ショック後、欧米が積極的に行ったのは、バブル崩壊後の日本を反面教師に、大胆な金融政策と大規模な財政出動を行うことで、なんとかデフレを回避できた」と説く。厳しいが、まさにそのとおりだ…


●低所得については「賃金が上がらないのは、①労働分配率が低い②労働者の流動性が低い」ためだ、と指摘する。
●低物価については「物価が上がらないといけないのは、そうしないと賃金も上がらないから」「日本では、サービス価格の上昇率が悪い。サービスの取引では基本的に、サービスを行った人の人件費が価格になるので、賃金に直結する」。
●低金利については「現在の金融緩和は、本当はもっと金利を下げたいのに物理的に下げられない。中立金利が低すぎて金融政策が効きにくくなっている」。
●低成長については「『保健衛生・社会事業』『専門・科学技術、業務支援サービス業』『情報通信業』のような、産業構造の変化の中で必然的に伸びざるを得ない産業以外の成長は乏しい」。


世界の現状はスクリューフレーションにあるとする。スクリューフレーションとは「中低所得者層を締め付けるインフレ」で、「生産拠点が新興国に移ったことで仕事は減っていくのに、生活必需品の物価は上がっていく。自分たちはスクリューフレーションで締め付けられる一方、自国の経済成長の恩恵は富裕層に集中し、彼らはますます富を増やしていく-こうした労働者たちの反発が、イギリスのEU離脱アメリカのトランプ政権誕生につながっていった」。しかし「日本では、大きな富を生み出す新しい産業が生まれるわけでもなく、長期停滞で賃金も上がらず、『みんなが締め付けられている』状態」って、本当に終わっている状態だ…


そもそも、なぜこうなったのか。「日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗と、それによってもたらされた過度の将来不安」「アベノミクスでは最初の年はそれなりの規模で財政出動を行ったが、2年目の2014年4月、まだ経済が十分良くならないうちに消費税率を8%に上げてしまった。消費税率引き上げというのは、財政出動とは逆の財政引き締め策なので、この影響がとても大きかった」「金融政策だけでは効果が不十分なときには、財政出動や減税によって政府がお金を使わなければならないが、日本政府は財政出動を渋っているがゆえに、財政政策の効果が不十分となっている」と言われると納得。


では、どうすべきか。筆者は「日本の場合には長期の経済停滞による将来不安などもあり、給付金では貯蓄に回ってしまう。用途や期限を定めた減税で、支出を促すべき」「日本のようなデフレ下においては、成長で自然に増えた税収を正しく振り分けるべき。景気の回復を諦めると、富裕層も貧困層も先細りになる」と述べる。
そして「日本は中途半端に国内市場が大きかったので、これまでなんとなくドメスティックな産業だけで回せて来ていたが、そろそろ日本もグローバルな方向にシフトせざるを得ない」「農業や漁業をはじめ、新しい視点で見直し、国が積極的に企業の参入や人材に投資をしていけば、日本でもグローバルに稼げる産業がもっと育ち、増えていくはず」と可能性を語るが、本当に大丈夫かな…創意工夫が欠かせないと思うのだが。


諸々不安な空気に対して「政府債務のうち、日銀が持っている債権は別枠で考えなくてはいけない。財政規律は政府債務だけではなく、インフレ率なども含めて総合的に計るのがグローバルスタンダード」「これまで財政危機に陥った国は、すべて経常赤字=投資超過の国」「おカネの価値が暴落するハイパーインフレは、日本で起こることは考えにくい。なぜなら日本は世界最大の『対外純資産国』で、世界第三位の『経常黒字国』だから」「『政府債務のツケを将来に残す』ということは、『将来世代に民間資産を残している』こと」というのは冷静な言説だと思う。


『適切に恐れる』というのは難しいのだが、現状は全くよくないので、未来に希望をもって進みたいものだ…