世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】香取照幸「教養としての社会保障」

今年35冊目読了。厚労省で年金局長や雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた筆者が、社会保障とは何か、そして日本社会の直面する課題と解決の道筋について解き明かしていく一冊。


出口治明お薦めの一冊だったし、そもそも社会保障はわかっているようで全然理解していないので、読んでみたところ、相当読みごたえがあった。
 
そもそも、社会保障とは何か。「社会全体の活力が自己実現を目指す一人ひとりの市民の営為によってもたらされるものだとすれば、個人の自由な人生選択と、リスクを恐れずに持てる能力を最大限に発揮する機会を公平に保障する社会こそ、我々が目指すべき社会」「年金制度や医療制度を始めとする社会保障の諸制度は、市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための制度」と、その設計思想をまとめたうえで「近現代国家の社会保障の機能をひとことで表現すると『民生の安定』」「社会保障という形で、所得を再分配することが社会全体の安定につながるから、この制度がある」と、その意義を説く。


日本の皆保険制度は奇跡だ、として「復興時期にいち早く皆保険・皆年金制度をつくった先人の先見性、社会保障制度が社会の分裂を防ぎ、格差の広がりを防ぎ、社会の安定と経済の発展を支えている」と指摘。「現行の社会保障制度の基本的な哲学は『自助』を基本に『共助』で補完する、ということ」であるが、「制度の全体像=マクロの風景と、市民一人ひとりにとってのミクロの風景画、物凄く乖離している。そこに難しさがある」とも述べる。


そんな日本の奇跡は「もともと、地域社会や家族の基盤がしっかりしていて、企業も福利厚生を手厚く手当していた。そのため、日本の社会保障の給付は現役世代には薄く、高齢者中心となった」とのことだが、社会が変化してしまい「今後20年から30年という期間が、労働力人口が減るのに高齢者は増え続けるというもっとも難しい時代」に入ってきてしまった。結果「子供も生んで、子育てもして、仕事もして、と、とにかくなんでもかんでも女性にやってください、と言っているのが今の政権」という状況になってしまっている。
結果「人口減少社会に直面している我が国がいま考えなければならないことは、経済縮小への対応と消費縮小への対応」という状況においては「社会保障だけではなく、経済政策も成長戦略も、若い世代の可能性を支える、という考え方を中心に組み立てたほうがいい」という状況に陥っている。さらに悪いことに「世代で見ると高齢者層に資産が集中し、高齢者層の中でも特定の富裕層に集中している。しかもそのお金が動いていない、世の中に出回らない、というのが現状」「縮小する一方の消費を促すには、将来の生活の不安を取り除くことが一番の特効薬で、それが社会保障の本質的な役割。が、それが適切に機能していなければ、過剰貯蓄という事態に陥り、今の日本はまさにその状況」と、出口が見えない状況。


財政規律の点では「一般歳出の半分が社会保障費、ということは、毎年の財政赤字の半分は社会保障が原因」「日本の危機的財政のことを考えずに社会保障の議論はできない」という点にも触れる。


では、どうすればよいのか。「3つの視点①世界の中での日本:同時代=共時の視点、②日本の独自性:歴史=通時の視点、③官と公の視点、が必要になる」としつつ「社会を覆っている、経済や社会の将来への不安、拠り所の喪失・目的と役割の喪失が生む日常の中の不安、政治不信・アンビバレント志向が生む制度や政策に対する不安が強い」「不安の背景にあるのは安心社会の揺らぎ、グローバル化構造改革、社会の不安定化、危機に瀕する国家財政がある」という状況では一筋縄ではいかぬ。
必要なことは「転換期にあるという自覚、経済と社会保障を対立的に考えずに安心と成長の両立を目指す、人への投資・知識集積による社会・産業・経済の活性化」だと主張。
今やるべき、ということについては「日本という国に信頼というブランド力があるうちに、人への投資を重視する仕組みを早く実現しなければならない」「ポピュリズムのような一点突破ですべてが解決することはない。確実に、一つひとつを積み上げ、全体の改革につなげていく。それこそが本当に改革」と悲痛な叫びともとれる言葉を述べる。


最後に、筆者は行政官に必要な力として3つを「実態把握能力:①現場と接した『経験』から生まれる『人や社会に対する想像力』、②相矛盾する様々な事象を分析・理解し解を導く『専門知』、③人間としての『感性』」、「コミュニケーション能力:『人の意見を聞く能力』+『自分の意思・意見を人に正確に伝える能力』=『言論による合意形成~人を言論で説得する能力』。大前提は、相手を認め、信頼すること」「制度改善能力:問題を正確かつ客観的・包括的に理解する能力、最適解を見出し実効ある具体的解決策を組み立てる能力、関係者の合意を形成する能力、それを確実に実施に移していく能力」と読み解く。これ、社会人なら誰でも必要で、自分は全く至らないところだらけ…深く反省する次第。