今年34冊目読了。自衛隊勤務経験のある筆者の2022年芥川賞受賞作。
コロナ禍で働くバイシクルメッセンジャーが、自分の衝動と向き合うのだが、途中から一気に転調する。あまりのことに、にわかについていけないが、それでも読み進めると、コロナ禍における閉塞感、無力感、その中で人はどう生きるか、というテーマを投げかけてくる非常に力強い小説だと感じる。
ネタバレ回避で、心に残った言葉を。
鬱屈したコロナ禍の日々の中では「この道をこう行くぞ、と決めるよりもなんとなく走っていた方がうまく回るときがある」「こんな日々を積み重ねた先にあるのは、やっぱりゴールじゃないという気がしている。どんな日々を積み重ねたら納得できるゴールがあるのかは分からない。ひょっとすると積み重ねるという行為はゴールから遠ざかっていくことなんじゃないか、とも思える」「だいたいこの気分というやつはほとんど生理と連動している」「遠くに行きたいというのは、要するに繰り返しから逃れることだった」「似たような一日を積み重ねていると、何か事件でもない限り特定の日を思い出すのは難しい」のあたりが共感できる。
生きるにあたっては「優劣の基準は中身ではなくて外側に占められていたのかもしれない」「痛みに耐える方法は、そこから目をそらすのではなく、直視することだ。見れば見るほどにだんだんと痛みは分解されて客観視できるようになる」は、確かにそうだろうな。
そして、窮極「どうなるかは誰にも分からない。それでいい」というところに立てるかどうか。本当に難しい世の中を生きている、ということなんだろうな…