世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】松岡圭祐「八月十五日に吹く風」

今年30冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、奇跡と呼ばれたキスカ島救出作戦と、それに関わる人々の思惑や心情の交錯を描き出す一冊。


これは凄い。事実としては知っていたが、アッツ島の玉砕に比べ、キスカ島においては樋口季一郎中将、そして木村昌福司令官の人命優先思想と類まれなる観察眼と実行力。それらが相俟って、この奇跡が生まれたのだろう、と痛感する。そして、樋口中将は敗戦後のソ連襲撃に敢然と抵抗した部分も少し触れられており、まさに「救国の志士」である。感動で震えが止まらない。


日本軍の特徴として米軍が思っていたこととして「ひとつのやり方にのみ固執し、ほかの可能性を考えない。部隊には秩序が保たれ、兵士たちも勇敢ながら、司令塔となる将校を失うとパニックを起こす。兵士自身が思考を持たないことに起因する」「人命軽視、不条理な戦死の目的化、同一戦法への固執、想定外の事態への対処能力欠如、理想や願望と事実の混同」というのは、コロナ禍の2022年でも全く変わっていない、いやむしろ悪化しているかもしれない…


ウクライナ侵攻を目の当たりにしていると「戦争が長引き、度重なる悲痛のうちに感覚が麻痺していく。死体をまのあたりにしようと、その意味を心から締め出す、異常なすべを身につける。とりわけ将校には必要とされる資質だった」という恐ろしい戦争の非人間性を感じる。
でも、そんな中で「あなたはおっしゃいました。救える者から救うと。私はあのとき、内心驚きました。あなたは軍人であられる前に、人間であられた」「救える者から救う。ゆえにいまは戦うしかない。軍人とはこんなものかもしれなかった。国が降伏したからこそ、生きることの意義がある。ほかに兵を率いる者はいないのだから」という樋口中将と木村司令官の卓越した世界観が心を揺さぶる。自分には到底辿り着けない域だが、少しでも近づきたい。


生きていくうえで「伝統、仕来り、信念。あらゆる縛りが作戦を困難にする。率先して本音をさらけ出す必要がある」「現実を直視するには勇気が必要となる。いまこそ適応せねばならない」「願っても奇跡は起きない。言い訳しないで生きることが、本当の強さかもな」のあたりは、相当なる自己鍛錬が必要だが、少しでもそうなれれば、と感じる。留意していきたい。


ウクライナ危機の今こそ「もし眼の前に泣いている人がいたら一緒に泣けばいい。生あるかぎり泣ける喜びがある。いまはほかに何もいらない」「きょうはあの島国の人達も泣いているのだろう。いずれみな笑顔になる。そのために生きていると思えば、今後なにも辛くない」「笑顔がある。家族と喜びを分かち合っている。人として生きるとき、それ以上何を望むだろう。最大に等しい幸福を手にしているというのに」ということを噛み締めたい思いがある。


サラリーマンとしては「上に相談してみたが拒絶された。そんな言い草で責任を果たしたと居直る気か!」の言葉が耳に痛い。そう、これではいけないんだな。勇気を貰える一冊だ。