世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】J・F・エンライト、J・W・ライアン「信濃!」

今年4冊目読了。第二次大戦末期、日本海軍の秘密空母である「信濃」を撃沈した米軍潜水艦、アーチャー・フィッシュ号の艦長が、邂逅から撃沈までを両サイドから俯瞰して書き表した一冊。

「事実は小説よりも奇なり」というが、実際にこの本を読んでみると、つくづくそう感じる。結果が分かっている読み手とは異なり、米軍潜水艦側の持っている情報、日本軍空母と護衛艦の持っている情報は断片的である。それぞれが、お互いの出方と状況を読み合いながら、結末に向かって皮肉な運命の糸を織りなしていく様は、理屈で考える作戦計画とは異なり、現場の難しさ(それゆえの面白さ)を存分に感じさせてくれる。感情を織り交ぜながらも、事実と誠実に向き合う筆者の書きっぷりが、またリアリティを増幅させ、その時その時の決断に至るプロセスを味わうことができる。

日本人としては、胸が締め付けられる思いがするし、そもそも、大和・武蔵に続く三番艦であり、本来は存分に活躍するはずであった信濃を処女航海で17時間あまりしか経たず、かつ空母として1機も航空機を発艦はおろか搭載すらせずに沈めてしまった、という事実には腹が立つ。不完全な状態で横須賀から呉に廻航し、呉で艤装を完成させようとして中途半端な状態で航海に乗り出させた司令部の無能さにはほとほと呆れ果てる。そして、そのような状態の艦をあずからざるを得なかった艦長以下の不遇には同情を禁じ得ない。

「(こういう状況下では)艦長のほうが情報を得ている。……彼は現場の人間なのだから、何百マイル離れたところでデスクにかじりついている者より、適切な行動をとることができるのだ」「老練な敵が相手の戦いは、ほんとうのところ、なに一つ”計画どおり”にはいかないものと相場が決まっている」「危機っていうものは、チャンスが”危険という翼”に乗ってやって来る」「<敵の裏をかいてやれ>それ以外にはない。人間だれしも、大事を決行する直前、一瞬の迷いを生ずるものだ。それが狙いであった」など、ワクワクするフレーズもあり、現代ビジネスにも十分に流用できる知恵が詰まっている。

軍事好きであれば、必読の一冊だ。