世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】久江雅彦「米軍再編」

今年81冊目読了。毎日新聞から共同通信に転じ、ワシントン特派員を務めた記者である筆者が、2005年11月に、日米秘密交渉で何があったか、その経緯を書き記した一冊。


この後、鳩山某の愚かしい「ひっかきまわし」もあってグチャグチャになった「普天間飛行場辺野古移転」。その傷のほうが激しいので、つい忘れがちになるが、この問題は入口段階から日本側の対応に問題が多かったことが浮き彫りになる。


米軍再編は「基地のある地域に米軍を固定して、そこで戦う、あるいは睨みをきかせる冷戦期の戦略では、テロなどの『予期せぬ脅威』に迅速に対処することが難しくなったから」起こってきたことであり、中心的課題は「①米陸軍第一軍団司令部のキャンプ座間移転②第五空軍司令部のグアム移転③沖縄の基地問題普天間飛行場の移設)」である。「平時からの現地情勢の正確な把握、同盟国と連携した情報の収集や分析、作戦の立案機能や相互運用性の向上、そしてなによりも有事の際に戦闘の最前線と司令部との時差をできるだけ少なくして、時々刻々と変化する情勢に即応できるという観点から、前線に司令部を置く重要性は、軍事技術が進展した今も大きく変わっていない」ということだ。「米政府は海外の米軍基地再編を通じて、同盟国の軍隊の任務と役割の強化を狙っている」という部分もある。


これに対して、「米国から見た場合、数ある米軍の海外駐留先の中でも、日本はけっして手放したくない基地。逆にいえば、日本にとって、米国に対する基地などの提供は、もっとも効果的な『交渉材料』になり得る可能性があった」にもかかわらず「日本政府が米国に働きかける絶好の機会を逸してしまった鈍重な反応の背景として、在日米軍のあり方を含め、日米安全保障政策のあるべき姿を日頃から構想する努力を怠ってきたことが挙げられる。また首相官邸、外務省、防衛庁など関係機関の連携態勢が十分に確立されていないという日本側の致命的欠陥もあった」。
結局、トップ会談でも「沖縄の基地負担の軽減を求める小泉と、米軍のプレゼンスがアジア太平洋地域に貢献していると力説するブッシュ。すれ違いに終わった首脳会談は、在日米軍再編をめぐる日米の思想と立脚点の違いを象徴した」ということにしかならず、最終的には「政治の不在、そして過剰な基地負担を強いられている関係自治体の首長が、協議の内情をほとんど知らされない状況で、『制服組』同士の既成事実だけが着々と積みあがっていた」。


そもそも、日本のスタンスがよくない、として「あらゆる場面で建前と本音が交錯して、双方を巧みに使い分ける日本の独自性が、安全保障の分野でも如実に表れている」「日本政府は条文と実態の断層を解釈で埋めてきた」という経緯はあるにせよ「負担軽減の必要性を口では唱えながらも、現状を変化させることによって生じかねない抑止力低下の不安、米国に促されるまでは在沖縄米軍基地の本土移転などシミュレーションとしても検討していない無策ぶり。そもそも日本政府は、在沖縄米軍の各部隊がいかなる機能を果たしているのかも、個別具体的に把握していない。米国に対して、日本案なるものを提示するための基礎知識すら持ち合わせていなかったのが実態」とバッサリ。その当然の帰結として「日本政府は、関係自治体から協議内容の事実関係の確認を求められ、一方、マスコミ各社は真相を探ろうと取材攻勢をかける。米政府は日本の消極姿勢に不満と不信を蓄積させていく。日本政府は三方から受け身となり、袋小路に迷い込んでしまった」。
その遠因には「戦後の日本で長年に亘り国防議論がタブー視されてきたのは、第二次世界大戦参戦から敗戦までの反省と教訓、トラウマに加え、自国防衛のための自衛隊が発足する以前から、占領軍が在日米軍として継続して駐留した経緯と無縁ではないかもしれない」と述べる。


筆者は「在日米軍のあり方や自衛隊の連携を含めて、安全保障戦略を不断に検証しながら将来像を描く頭脳は、いまもってこの国には存在しない」「本来は、政治が安全保障政策をリードすべきであり、『制服組』による既成事実を追認するだけの判断は避けなければならない。米軍と自衛隊の連携を適切にコントロールする識見と指導力が、日本の政治に問われている」と結論付けるが、正直、2005年の執筆当時より、2021年の現在のほうが遥かに識見と指導力は悪くなっている…
ローレス米国防副次官の言葉が、コロナ対応のまずさを含めたすべてを物語っている。「日本政府では一体、だれが、どこで物事を決めているんですか?私にはまったく理解できない。この国には、政治的な意志がない」。本当にそのとおりであり、哀しくなる…


国防、シビリアンコントロールを考えるうえで大切な本だと思うが、むしろ日本政府の無能っぷりが加速度的にひどくなっていることの方を痛感してしまう、といういやな読後感だ…この本は適切な指摘をしているだけで、罪はないのだが…