世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山口揚平「自分だけの才能の見つけ方」

今年77冊目読了。事業家・思想家にして、鐘紡やダイエーの企業再生に関わった後、劇団経営や海外ビジネス研修プログラム事業などを手がける筆者が、天才性を発見して最高の仕事と生き方に出会うことを提唱する一冊。


時代の流れの中で「昭和はコンストラクション(製造)の時代、平成はオペレーション(操業)の時代、令和はクリエーション(創造)の時代」とし「これからは職場を探すのではなく、仕事を創る姿勢が必要。職業選択から仕事創造への考え方を変えていかねばならない」世の中だ、とするも「今は社会から少し距離を置き、自分や身の回りの人に集中すべき時。経済が伸びなくなり社会が疲弊しているため社会規範や倫理が九に厳しくなっていること、硬直化した社会の水面下では、実は個人の価値観の変革や多様化が進み、個性を発揮していきやすくなっている」と述べる。


では、どうすべきか。「天才=『天才性を知ること』+『天才性に忠実に生きること』」であるとし、数千人との対話から編み出したジーニアスファインダー「①とげぬき(記憶を整理して幼少期に植え付けられた自己評価や偏見を洗い流す)②天才性の抽出(自分のコア<存在の本質>から輝き出る天才性を明らかにする③再構築(天才性に基づいた生活環境や仕事を作り直す)のステップを踏む」に取り組むことを提唱する。「外の世界を旅して行う『自分さがし』ではなく、過去の記憶(自分史)を丁寧に見つめることで自分の本質を削り出すという『自分はがし』が必要になってくる」というのは、非常に納得だ。削り込んで本質に迫る、ということは、あらゆることに通じるからなぁ。


今後の日本が注力すべき3つのテーマは「①ロボティクスの再生(日本の強みは、長いサプライチェーンを可能にする『擦り合わせ』。複数で多数の工程を踏むため、多くの雇用を生み出し、国外に輸出して外貨を得られる)②医療システムの改革(高齢化社会の日本で、医療システムそのものの改革に絡み、アメリカなどからシステムを輸入しコストを削減する)③コミュニティインフラの確立(政治システムが過渡期なので、県という概念がなくなり、いかに優秀なリーダーがいるかが重要。社会インフラを創る仕事が儲かる)」と提言。
これまでの成功者は「基本的には1つ次元の高いことを考えた人。昭和は、空間を超えてアメリカの土を踏んだ人が成功した。平成は、タイムマシン経営で未来を洞察(4次元)することで時間を超えて成功した。」とし、今後については「令和の時代はというと、空間(平成)、時間(令和)が克服される(ゼロになる)とすでにわかっている人、空間と時間を超えた5次元の世界に生きる人」であると予想。「これからの日本と皆さんの考えるべき本質は『何のために?』というコンセプト。この国が失ったのは経済大国の座ではなく、何のための国なのか?というアイデンティティ」と述べる。


筆者の表現は「描くこと(算数)から『実現』が得られ、人を想うこと(国語)で『幸せ』が得られる。感じること(理科)で『エネルギー』が得られ、観ること(社会)で『安定』が得られる」「天才性とは4次元感覚(時間のゆがみ)のあるところ。他人と時間の流れが違う」など独特のものがあり、やや頭では理解しづらい。感覚で掴みに行く、というような感じだろうか。


観光業に携わっている者としては「観光産業を本気になって盛り上げることで、一番の問題は、それにかかわる人が増えてしまう事。タピオカ販売ならだれでもできる。つまりインバウンドという名の観光産業とは、大切な雇用を食ってしまう極めて労働集約的で、参入障壁の低い低収益産業」「観光立国は『下の策』。落ちぶれた国家が最後に選ぶ、尤も安易な退廃の道。観光業で食べていくということは、産業的には辛い、末期を迎えている国」と断じられてしまうことにはいささか鼻白む思いだが、全般的には筆者の主張はわかりやすい。


本を買ったらついてくるコードで自己診断は出来るものの、実際にはそれでは不十分。本書に書かれているワークで実際に自分と向き合ってこそ、というところなのだが、これをやるのは骨が折れる。そんなに簡単に才能は見つからない、という、至極当たり前のことではあるのだが、そこに向かう手法を示してくれていることだけでも十分なのかもしれない。読み応えもあり、面白かった。