世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】マシュー・サイド「多様性の科学」

今年22冊目読了。イギリス「タイムズ」紙の一級コラムニストの筆者が、画一的で凋落する組織と、複数の視点で問題を解決する組織の謎を解き明かす一冊。


原作のタイトルは「REBEL IDEAS(反逆者のアイデア)」。意訳が『売れるビジネス書』としては正しいが、内容を捻じ曲げている気がする…とはいえ、これは非常に良書だ。  


なぜ、多様性が必要なのか。筆者は「一筋縄ではいかない問題を解決しようとする際には、正しい考え方ばかりでなく『違う』考え方をする人々と協力し合うことが欠かせない。複雑な物事を考えるときは、一歩後ろにさがって、それまでとは違う新たな視点からものを見る必要がある」「多様な背景や経験を持つ人々の集団は、そうでない集団に比べて人間を深く理解する力に長けている。多角的な視点をそなえていれば、それだけ盲点も小さくなる。枠組と枠組の橋渡しもできる」と述べる。他方、画一的だと「ものの見方が似た者同士は、まるで鏡に映したように同調し合う。そんな環境では、不適切な判断や完全に間違った判断にも自信を持つようになる。まわりの同意を受けて、自分がこれだと思うことが正しいと信じてしまう」「『居心地の良さ』は知の追求に危険性をもたらす」という指摘はなるほとど思う。


心掛けるべきは「ただ無闇に反論するのではなく、問題空間の異なる場所から意見や智恵を出す。新たな観点に立ち、それまでとは違った角度から視野を広げてくれる。それが高い集合知をもたらす」「難問に挑む前に認知的多様性を実現することが欠かせない」「集合知を得るには、賢い個人が必要だ。それと『同時に』多様性も欠かせない。そうでなければ同じ盲点を共有することになる」「対処する問題と密接に関連し、かつ相乗効果を生み出す視点を持った人々を見つけることがカギになる」というのは、本当にそうだなぁと思う。


そして、せっかく多様性を設けていても「最初は多様性豊かな集団でも、そのうち集団の中の主流派や多数派に引っ張られて(同化して)結局みな画一的な考え方になってしまうことがある。組織ではよく見られる傾向だ」「集団の支配者が、『異議』を自分の地位に対する脅威ととらえる環境では、多様な意見が出にくくなる」「互いを修正し合うことなく、特定の意見に同調して一方向に長江ダスト、それがひどい間違いであっても、自分たちの判断は正しいと信じ込むようになる」「人は不確かな状況や、自分でコントロールできない状況を嫌う。不確かな状況に直面すると、我々はある種の支配的なリーダーを支持して、秩序を取り戻そうとする傾向がある。いわば自分の不安を他人の主導力で『埋め合わせ』するのだ」「人は熟練して深い知識があるからこそ、現状に囚われやすい。そのせいで、新たなテクノロジーによる進化の可能性に気付けなくなる」という行動特性がある以上、常に刺激を求めることは大事なんだな。
他方「人は大きなコミュニティに属すると、より狭いネットワークを構築する傾向がある」は意外な感じがするが「人数が少ないと多様性も低い。しかしその分、自分と似たところの多い人も見つけにくい。すると、なるべく違いの少ない人で妥協することになる。数が少なくて多様性が低ければ低いほど、同じタイプの人間を見つけるのに制限がかかる」と言われると納得する。


組織についても「個々の人間を見ず、全員を『平均値』として扱っている。多様性を見過ごせば、多様性のメリットは得られない」「標準化は多様性を統合するのではなく、はじめから除外してしまう」と警鐘を鳴らし、「勤務時間に限らず、柔軟なシステムは、組織や社会に進化をもたらす重要な要素の一つ」「自分の好みや個性に合わせて、自分だけの世界を作れる。ちっぽけなことに思えるかもしれないが、当人にとっては非常に重要だ。企業などの組織で多様性をうまく取り入れるには、こうした環境作りも大事な要素となる」と、多様性を大事にする取り組みを推奨する。


もちろん、画一性が悪いわけではないが「決定事案をそのまま実施するのではなく、考えなおしたり、新たなアイデアを出したりする必要がある場合は、支配型のヒエラルキーではうまくいかない。ここでは尊敬型のヒエラルキーがカギを握る「融合が進化の原動力になりつつある現代において、重要な役割を果たすのは、従来の枠組みを飛び越えていける人々だ。異なる分野間の橋渡しができる人々、立ちはだかる壁を不変のもの、破壊不可能なものとは考えない人々が、未来への成長の扉を開いていく」「絶えず変化を続ける世の中では、初期設定に疑問を呈する力があるかどうかが大きな違いをもたらす」」と、VUCA時代だからこそ多様性、ということなのだろうな。「クールなテクノロジーを発明したいなら、頭が切れるより社交的になったほうがいい」は、なかなか興味深い指摘。


色々と学びの多い本だが、一番刺さったのは「誰にでも自分なりの論理がある。みんなほぼ無意識にその論理にのっとって行動してる。危ないのは、自分でそれに気づいていない人間だ」というところ。まさに危ない…気をつけないと。