世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】石川淳「シェアド・リーダーシップ」

今年6冊目読了。立教大学経営学部長にして立教大学リーダーシップ研究所所長の筆者が、「チーム全員の影響力が職場を強くする」ということを提唱する一冊。


「シェアド・リーダーシップとは、簡単に言ってしまえば、職場の誰もが、必要なときに必要なリーダーシップを発揮している状態のこと」と定義し「いかに優れたリーダーであっても、1人のリーダーだけでは、優れた決断ができないのが現代である」と、その必要性を説く。そして、シェアド・リーダーシップは「個人レベルでは①職務満足②組織コミットメント③内発的モチベーションにつながり、職場レベルでは①職場としての能力②職場の情報量③チーム効力感につながり、職場の成果を生み出す」とする。
そして、今の時代にシェアド・リーダーシップが求められているのは「環境が急激に変化しつつある状況では、シェアド・リーダーシップが効果を発揮する。変わりつつある環境で、成果を上げるために何が必要であるのかをリーダーが必ずしも知っているとは限らないから」「職務範囲を曖昧にとらえている日本企業では、潜在的に、みんながリーダーシップを発揮することが求められる」とする。
そんなシェアド・リーダーシップを促進するには「『分化①自己効力感②パーソナリティ・ベース・リーダーシップ③多様性を認める風土』と『統合①目標の共有化②視点の変化』の2つを高レベルとし、それを達成するために職場での信頼関係構築が必要となる」とする。


シェアド・リーダーシップへの否定的見解に対しては「各自の判断によるリーダーシップの発揮がなく、単にルールや指示・命令だけに従って行動すれば、現場はかえって混乱する」「職場のメンバーそれぞれが、職場のミッションやビジョン、戦略、目標を理解せず、また、職場の状況やそれぞれのメンバーを理解せず、さらに、自らが期待される役割を理解しないまま勝手な判断でリーダーシップを発揮するから混乱する」と反論する。


リーダーシップ論についても、なかなか面白い見解を述べる。「効果的なリーダーシップを身につけるために最も有効な方法は、豊かなリーダーシップの持論を身につけることである」と述べ「持論が優れているのは①応用が容易であること②自らの性格や能力に基づいていること③状況に基づいていること」とする。理論がだけではなく持論を大事にするのは「優れた持論を構築するためには、理論を覚えているだけでもダメだし、理論をそのまま持論にしてしまってもダメなのである。理論を自分なりに解釈し、自分の性格・能力や部下の性格・能力、自分や部下が置かれている環境を勘案して持論に当てはめる作業が必要になる」からだとし「理論が持論構築に役立つ理由は①理論は、持論を明示化し整理することに役立つ②理論は、経験だけでは得られない考え方やものの見方を提供してくれる」と説明する。


陥りがちで、気を付けるべき点として「リーダーシップを発揮するための書籍の使い方を誤れば、まったく意味をなさないばかりか、時と場合によっては、逆効果をもたらすこともある。偉大なリーダーが成し遂げた様子に考えきして、次の日から、そのリーダーが行ったことを真似てみる、というのはありそうな話である。しかし、それはやめておいたほうが良い。真似てみたはいいものの、うまくいかなかったり、三日坊主で終わったり、周りからあきれられたり、などといったオチがつくのもよくある話である」「どのようなすばらしい発言をしても、どのようなすばらしい行動をしたとしても、フォロワーに受け入れられなければ、それは、単なる自己満足にすぎない」「自分が大切にしている価値観と異なる価値観を持つ人と出会うと、その点ばかりが気になってしまい、その人に関わるその他の情報を知覚しなくなってしまう」などを警告している。


マネジメントの重要な役割として「①計画すること②組織化すること③リードすること」を挙げ「マネジメントを行うためにリーダーシップは必要であるが、リーダーシップだけで職場の活動がすべてうまくいくわけではない。マネジメントが必要となる」という見解を述べているのは、ともすれば管理を過度に否定する昨今のリーダーシップ論とは一線を画し、現実的だと感じる。そして「マネージャーに求められる能力は、専門的・技術的能力、人間関係能力、概念構築能力」「マネジメントについては、強みを発揮するだけでなく、弱みを克服することも必要」とする(反射的に「リーダーシップに限って言えば、弱みを克服するよりも、強みをリーダーシップとして活かしたほうがずっと効果的」とも述べている)。


職場運営で留意すべき点として「職場やチームの成果を高めるためには、優秀な1人のリーダーが一方向的にリーダーシップを発揮しているだけでなく、他のメンバーも必要に応じてリーダーシップを発揮することが必要である」「自分に向かないリーダーシップを無理して発揮するよりも、自分の性格や能力上の強みを活かしたリーダーシップを発揮するほうが効果が高い」「風土の形成に影響を及ぼすのは、制度、儀式、シンボル、言語、公式リーダー」「現場の従業員にとって、職場の目標が重要だと感じるのは、その目標を達成することが、組織全体のミッション、ビジョン、戦略、目標の達成に貢献するということを実感できるとき」などを挙げる。


信頼についての指摘も鋭い。「他者から信頼を得るには①有能であること②誠実であること③慈悲深い事④開放的であること⑤公正であること⑥一貫性があること」「見返りを期待しない慈悲深さを示されると、その人に対して、信頼を置くようになる。何の見返りも求めないで自分のことをこれだけ気遣ってくれる、という気持ちが、信頼につながるのであろう」は、なるほど納得だ。


自分の心に響いたのは「持論仮説を構築するために重要となるのが、経験、観察、対話、そして内省」「個人が仕事において創造性を高めるには①専門的知識・技能②フレキシブルな認知能力③内発的モチベーション、が重要である」「個別の意思決定や行動はフレキシブルに変化したとしても、基本となる信条や価値観に対する整合性は一貫している必要がある」「効果的なリーダーシップを発揮するためには一歩引いてみて、全体を見渡すことが必要」「適切なリーダーシップを発揮するためには、社会という大きな視点から組織や職場をとらえ直すことも、時には必要になる」のあたり。


本題とは離れるものの「持論で語るリーダーシップ」という考え方は、意外と斬新で面白く、かつしっくりくるものであった。シェアという概念よりも、そちらのほうが心に残った。何にせよ、平易な文章で読みやすいし、ぜひ、一読をお薦めしたい一冊だ。