世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ロナルド・ハイフェッツ「リーダーシップとは何か!」

今年117冊目読了。ハーバード大学大学院のリーダーシップ教育プロジェクト主幹の筆者が、リーダーシップの本質は何か?という難題に挑む一冊。


1996年出版ながら、その論説は2021年の今なお全く色褪せることのない切れ味を誇っている。時代を感じるのは、事例と、翻訳者が幸田シャーミン(笑)ということくらい。原題の「Leadership Without Easy Answers」のほうが実態を表しているな…


まず、我々が問題に向き合うときの行動の癖として「私たちが問題の存在を認識するのは、私たちが物事はこうあるべきだと考えているのに、状況がそれにそぐわない時である。したがって、適応の仕事に必要なのは、現実の評価だけでなく、価値観の明確化も含まれる」「私たちはストレスが深刻になると、途方もなく大きな権限を与えたがり、自分たちの自由を放棄しようとする」「逃避のメカニズムというのは、多くの場合無意識のうちに行われ、自分に対しても偽装を行う。それは往々にして、自らを心地よい気持ちにさせる状況判断ミスー社会システムが、ある一派に問題の責任があると信じ込んで、それをスケープゴートにしてしまうーの形をとる」を指摘。なるほどなぁと感じる。


そして、オーソリティへの権限委任については「私たちが組織内や政治でオーソリティの人物に期待するのは、一般的に方針、保護、秩序」としながら「問題が起きて、それが引き起こす危難がいつまでも続く時というのは、それまでの依存のシステムがその問題には機能しないから。私たちはオーソリティの人物が出すことのできない答えを、彼に期待する。そうすると、オーソリティは決断力を示さなければならないというプレッシャーの中で、救済するふりを見せたり、争点を回避する行動をとったりする」「オーソリティへの依存は、技術的な状況には適しても、適応的な状況には適さない」「適応が必要な状況で、オーソリティの立場からリーダーシップを行使するには、流れにあえて逆らわなければならない。解答を出してほしいという期待を満たすのではなく、問いを提供するのである」「オーソリティの人物が、自分が解答を持たないのに、自らを惑わしてそれを持っていなければならないと考えると、拙劣な役割を果たしてしまうことになる。知っているべきだというプレッシャーから、答えを出してしまうのだ。それが人々を誤った方向に導く間違った解答であってもである」のあたりに斬り込む。2021年の現代においても、これは全く変わらない。筆者の慧眼が光る。


では、人々はどのようなことに留意すべきか。「人々が適応的挑戦に直面したときは、時間を必要とすることが多い」「オーソリティが回答を持たない時、彼は、人々に厳しい質問をしたり、彼らの期待を鋳直して対応能力を開発させることにより、学習を誘発することができる」「オーソリティ主導で解決策を指示するのではなく、人々が問題に注意を注ぐようマネージすることによって、創造に道を開く」「オーソリティの関係における信頼とは、価値観と能力の二つの予測可能性からなる」「公式のオーソリティは明確に記された期待にこたえる約束と引き替えに得られ、非公式のオーソリティは暗黙であることの多い期待にこたえる保証によって得られる」「オーソリティが提供するリーダーシップの仕事のための資産は①争点に注目させる②情報を集めて現実性のテストを行う③情報を管理して問題の枠組みを作る④視点の対立を調整する⑤意思決定のプロセスを選ぶ」のあたりも、おおいに説得力がある。


問題の捉え方「技術的状況と適応的状況を区別するためのカギとなる問いは『この問題を打開するには、人々の価値観、姿勢、行動様式を変える必要があるだろうか?』である」「適応の仕事は、社会のどの立場にあろうとも多くの人々に、調整、学習、妥協を求める」は、U理論を学ぶ際にも聞いた話の『元ネタ』。これ、本当に真理を突いていると感じる。


非公式のオーソリティについては「組織や派を超えて非公式のオーソリティを得るには、自分の主張を相手側の価値観の文脈の中に置かなければならない。さらに、自分の考え方の狭さを修正するために、敵対者から学ばなければならない。教えるだけではなく、教えられもするのだ」「オーソリティは束縛にもなるので、それを持たないでリードすることには利点がある。①創造的な逸脱の自由をより多く持てる②一つの問題点への集中が可能③第一線の情報が手に入る」「オーソリティを持たずにリードする人は、より大胆かつ巧妙な戦略と戦術を用いなければならない。①オーソリティを持たないと、方位環境をコントロールする力が極めて乏しくなる②争点に注意を惹きつけるにあたって、自分が避雷針になってしまう危険性を持っている③オーソリティを持たないリーダーも往々にしてオーソリティの人物だけが変化をもたらす力を持っていると勘違いしてしまう」「リードする人たちは、自分のオーソリティを超えた行動をしていると感じているものだ」とする。確かに、権力を持った人がすべてを動かしているわけではないので、こういった捉え方は興味深い。


そして、本題であるリーダーシップについて「リーダーシップとは解答や確固たるビジョンからなるのではなく、価値観を明確にするための行動をとること」「難しい問題ー価値観の進化を必要とす?ような問題であることが多いーに取り組むことが、リーダーシップの目的。その仕事が完遂されるように持っていくことが、リーダーシップの本質」「社会が直面している挑戦に対して、それを避けるよりも取り組む方が、たくましい適応を生み出す可能性が高い」「境界を超えてリードするには、境界を浸透し、境界を作り変えることが必要」「リーダーシップをとるうえでの主要なチャレンジは、人々の注目を集めて、それを立ち向かうべき争点や疑問に振り向けることである。それには、行動を説明できるコンテクストを示さなければならない」「リーダーは、自分の行動によって引き起こされる人々の反応は、自分の演じる役割、その視点に対する反応であると解釈しなければならない」「リーダーシップは能動と受動の両面を持っている。行動と観察を交互に繰り返さなければならない」「リーダーシップには、日々失敗に直面する勇気が必要だ。さもなければ人は行動を修正することができない」「リーダーが生き続ける方法は『安全にふるまう』ことではなくて、常に行動の調整が必要なのだということを自覚し、担当する領域がどうなっているのかという評価を継続し、それに基づいてリスクをとること」と、一方的にグイグイ引っ張るだけではなく、自分も動きながら最適を求めていく不断の取り組みであることを解き明かす。


自らリーダーシップを発揮するにも、そうでない人達にも「私たちは救世主を探し求めるのではなく、苦痛を伴わない単純な解決方法などあり得ない難問、つまり新たな方法を見いださなければ解けない問題に立ち向かうよう、私たちに挑んでくるリーダーシップをこそ求めるべき」「対立する価値観の視点を取り込むことが適応の成功には不可欠」「私たちの文化や組織が豊かさや創造性に富み、複雑なのは、私たち個人個人が内面化されたさまざまな声による心の中の議論を持ち続けていけることからくるものだ」「社会が変化する必要性を直視せず、重荷をオーソリティに背負わせ続ける限り、次第に退廃したり、あるいは革命による権力者の入れ替わりの繰り返しに陥る」という事実と向き合う勇気が求められている。ぶ厚い本だが、今なおその主張のインパクトと迫力は十分。これは良書だ。