今年116冊目読了。学習院大学教授にして、日本中世絵画史を専攻する筆者が、国宝6点を残した天才画家の生涯をつまびらかにする一冊。
アート・ビギナーズ・コレクションシリーズは本当に引き込まれる。特に雪舟はその人生の数奇さ、長く旅をしながら様々な書法を使いこなした技術力、そして卓越した構想力が魅力的。
「雪舟は飽きない。絵が面白いのはもちろんのこと、抑えきれない個性を出しながら、しかし気ままに描いているわけではない。対象によりまた場に応じて描き方を変えている。そのヴァリエーションを見ながら、雪舟のあたまのなかを想像するのが楽しい」は、まさに雪舟の楽しみ方の急所を突いていると言えよう。
「漂泊しつつひたすらに自分の絵を追求する、天衣無縫な画聖のイメージ。それをはずしたときに見えてきたのは、芸術家に通じる強い自意識、またコンプレックスをもちながら、人付き合いはよく、ちゃんと『公務』をこなし、それによって地位を上げ存在感を増してゆく姿だった」は、まさに彼の生涯でのし上がっていった手法。ただ絵を楽しむだけでなく、その背景を知ると、絵が立体的に見えてきて面白い。
「『ともかく他人とはちがうものを』という現在とは違って、先人の表現に自分のものを積み重ねてゆくのが東アジアのやり方。その厚みのなかから、オリジナリティが生まれてくるのである」というのは、近代美術への強烈なアンチテーゼともいえる。これは痛快だ。
「禅では、すべては生まれながらにして人の心に宿っているという。『悟り』も、お経を読み、講義を聴いて『外から』学ぶ必要はない。それが『本来の心』にあることに気づけばいいだけなのだから」は、あらゆることに通じる真実だろう。色々と、面白い気づきがある一冊だ。