今年131冊目読了。超ベストセラー作家である筆者が、70年代の気だるい空気感と若者の迷い、そして季節の終わりを不思議なストーリーに載せて描き出す一冊。
気だるい灰色の空気感、なんとなく流れる日常、そんな中のスパイス的な出来事とそれに入り込んでゆく人々の心の揺らぎ。この世界観は、なるほど面白い。小説はほとんど読まないので(今回は三谷宏治「戦略読書」にリストアップされていたので読んだ)、多くは語れないが、とても不思議な読み心地。
心に引っかかったフレーズは「進化はもちろん三つの車輪、すなわちテクノロジーと資本投下、それに人々の根源的欲望によって支えられていた」「遠くから見れば、大抵のものは綺麗に見える」「どんな進歩もどんな変化も結局は崩壊の過程にすぎないじゃないか」「ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲め」「いつかは失われるものにたいした意味はない。失われるべきものの栄光は真の栄光にあらず」「一枚一枚と外皮を剥ぎ取った後にいったい何が残るのか、誇り?恐らく誇りなしには人は生きていけないだろう。でもそれだけでは暗すぎる。あまりにも暗すぎる。」「僕たちがはっきりと知覚し得るものは現在という瞬間に過ぎぬわけだが、それとても僕たちの体をただすり抜けていくだけのことだ」あたり。
ほとんど小説を読まないせいか、「情景をありありと想起させる文章って、上手いなぁ…」と痛感する。今更ではあるが、小説というのもなかなか面白いものだ。想像力を刺激される。