世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】宮城谷昌光「長城のかげ」

今年129冊目読了。歴史小説を得意とするベストセラー作家が、漢王朝の中興の祖である劉邦を軸とした群像劇を描き出す一冊。


三谷宏治が薦めていた本なので読んでみた。確かに、劉邦という人を斬るだけでなく、いろいろな関わった人々から歴史は斬ることができる。そして、それぞれに信義があり、思いがあり、野望がある。そんな広い視野を教えてくれる。


「端的にいえば、生きるということが利で、死ぬということが害である」「肚で話の出来ぬ男に訴えてもはじまらない」「書物にたよっているかぎり、知識はふえない。応用し活用することができて、はじめて知識といえる」のあたりは、いかにも実利主義の中国の面目躍如である。今の共産党支配はこのころの中国とは別物であることを痛感させられる。


また、世の中の理として「故郷というものは、栄達者に良い顔を向け、零落者に酷な顔を向けるところだ。人は幼若のころ故郷において飾りなく生きている。したがって恩を感じている者がいるかわりに、怨みを忘れないでいる者もいる」「人を疑えばきりがない」「利をとり、道をすてた者は、ほろぶ」「人は滅びるから美しい、というかもしれず、滅びない人は美しくない、ともいいそうである」の記述のあたりは、なかなか勉強になる。


政治と人について「中央集権の危うさは、内部に悪臣が生ずると、外からではかれの肥大化をふせぎようがないということ」「法が人の心の中にあるうちは争いもすくないが、はっきり目に見えるかたちで定着すれば、人は人をみずに法をみて、法にかからぬように心掛け、あるいは法を争いのまとにする。そこには人を立てるべき仁義礼信のような理念がなくなり、人が立たねば国家も立ち行かなくなる」は、2021年の日本を生きる者としては、なんとも身につまされる。


歴史の重層性、複雑性。そして、そこには個々の人々が息づいている。こういった歴史観こそ、現代人に求められているように感じる。歴史好きでないと背景がわからないので文意が掴みにくいだろうが、歴史好きなら楽しめる。