世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】李栄薫「反日種族主義」

今年63冊目読了。ソウル大学経済学部教授から李承晩学堂の校長に転じて活動する筆者が、「日本支配は朝鮮に差別・抑圧・不平等をもたらした。だが、だからといって、歴史に嘘をつくことはできない」と、日韓危機の根源に切り込んだ一冊。


韓国を震撼させた一冊、ということも納得の、反日主義者からすると「こんな主張はあり得ない」というような内容。でも、非常に冷静かつ事実に基づく思索を行うトーン、そして真実に向き合おうという真摯な姿勢に好感が持てる。自分が個人的に右寄りの思想を持っているということもるが、それを抜きにしても、これは非常に学ぶところの多い本だ。


日韓の争点について「朝鮮総督府が土地調査事業を通し全国の土地の40%を国有地として奪った、という教科書の記述は、でたらめな作り話。植民地朝鮮の米を日本が収奪したという教科書の主張は、無知の所産。日帝が戦時期に朝鮮人労務者として動員し奴隷にした、という主張は、悪意の捏造。憲兵と警察が道行く処女を拉致したり、洗濯場の女たちを連行し、慰安所に引っ張っていった、という韓国人一般が持っている通念は、ただの一件もその事例が確認されていない、真っ赤な嘘を土台としたもの」と断じ「この国(※韓国のこと)の歴史学社会学は嘘の温床。この国の大学は嘘の製造工場」と厳しく批判する。


では、なぜこのような嘘が蔓延するのか。「人が嘘をつくのは、知的弁別力が低く、それに対する羞恥心がない社会では、嘘による利益が大きいため。嘘をついても社会がそれに対し寛大であれば、嘘をつくことは集団の文化として広がっていく」と指摘。「嘘をつくことに寛大な堕落した精神文化は、この国(※韓国のこと)の政治と経済を混乱と停滞の淵に引きずり込む。ゲームに公正な規則や大きな約束がないから」「嘘をつく社会や国家は滅び行く」と警鐘を鳴らす。


それでもこの状況を打開できないのは「韓国の民族主義は、種族主義の神学が作り上げた全体主義的権威であり、暴力。種族主義の世界は外部に対し閉鎖的であり、隣人に対し敵対的。つまり、韓国の民族主義は本質的に反日種族主義」「嘘とでたらめな論理で日帝を批判してきて、また、大多数の韓国人がそのことにあまりにも慣れてしまったため、それが虚構であることが明らかにされると、日帝をどのように批判したらよいのかわからず、当惑させられる」と言われてしまうと、暗澹たる気持ちになる…


が、そんな状況においても、筆者が本書を記したのは「知識人が大衆の顔色を窺ったり、言うべきことを言わず、文章の論調を変えてしまったりしたら、その人は知識人だとは言えない。真の知識人は世界人。世界人として自由人。世界人の観点で自分の属する国家の利害関係をも公平に見つめなければならない」「一般に歴史学者は、他の資料により傍証されない個人の証言を、史料として認めていない」という普遍的な姿勢によるものだ。この姿勢は非常に学びが大きい。


また、歴史を語る上で重要な示唆を与える観点も鋭い。「実際に被害を受けた当時の人たちが全く問題にしなかった人々を、後代の人物たちが断罪した。『後に生まれた幸運を味わう者の暴挙』というしかない」「歴史学者たちは、インタビューが繰り返されると、彼らの記憶が一貫性を維持できないことを知る。昔のことであるため、記憶が薄らいでいることも、前後関係が混乱することもあり、またその間に、新たな記憶が作られることもある。何よりも、記憶を聴取する人との相互作用で、記憶という行為自体を政治化できるというところに留意する必要がある」あたりは、日韓関係のみならず、すべての歴史を後付けで考えないようにするために必要な、真摯な姿勢だと感じる。


事実関係の争いについてもさることながら、筆者の真摯な姿勢、そして真剣に「大韓民国」を思う・憂うが故の記述であることが胸を打つ。
他方、日韓関係における態度はともかく、内政において腐り切っている2021年の日本を省みると、あまり人のことも言えんなぁ、と感じる…