世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】馬場マコト・土屋洋「江副浩正」

今年128冊目読了。日本リクルートセンター出身で作家である筆者と、日本リクルートセンターからリクルートスタッフィング監査役などを務めた筆者が、稀代の起業家・江副浩正の実像に迫る一冊。


正直、リクルート事件のイメージが強すぎるのだが、リクルート社から羽ばたいた人々に触れるにつれ、その「リクルートイズム」に興味を持ち、読んでみた。そしたら、その人生の壮絶さ、そしていかなる環境においても挑んでいく姿勢など、読み物としても人生訓としてもあまりにも面白く、引き摺り込まれた。


起業の経緯もさることながら、その中で育まれていくリクルートの「個人の力によってサービスを生み出し、それを磨き続けるのがリクルートの企業文化」「『誰もしていないことをする主義』だから、リクルートは隙間産業と言われる。だが、それを継続していって社会に受け入れられれば、やがて産業として市民権を得る」「優秀な人材を採用し、その能力を全開させる」「社員には全力であたることだけを求めた。目標はつねに高く設定された。目標を達成する、あるいは成果を上げるのは当然で、そのスピードを競った」「組織のために働くのではなく、自分のために働く。それが個人を成長させる近道だ。そして、成長し続ける個人が集まる組織は強い。それなら、そのための制約は少ないほうがいい」のあたりは、本当に羨ましくなるくらい輝いている。こんな起業が20世紀にすでに成り立っていたのか…と圧倒される。


江副個人の話も、とても面白い。「冷めて自分をみつめることができるのは江副の大きな武器」「人が多ければ多いほど結論は遅くなり、経費がかかる」「新しい事業のヒントは、生活者の中にある」「だれも手をつけていない事業をいち早くやることで唯一の存在になれるのなら、まず全速力でそれに注力したい」という研ぎ澄まされた江副の起業家精神は、どこで狂ったのか。
「父の死で束縛が解け、江副は変容していった。投機性の高い株式投資の世界に傾斜していった。同時に、江副の中から、少しずつ謙虚さが薄れていくのを、旧知の人達は見過ごさなかった」「父の死、そして政府要職の座。これらが重なり、江副は少しずつ変容していった」「次々と新規事業を開設していった『江副一号』。それとは対照的に『江副二号』は何一つ新しい事業を開発し、軌道に乗せられずに、リクルート王国の国王として君臨した」のあたりに、江副の影の一面が見えてくる。


しかし、リクルート事件の中で「早く出たがらない。絶好の勉強のときと思うこと。悲観したり怒ったりしてもどうにもならない。ここにいる間を天賦の休憩と考えること。つらい環境は自分で克服しなければならない。いまがよい環境なのだと思う勇気を持つこと」と覚悟するあたりは、さすがとしか言いようがない。逆境で、このような心持になれるものだろうか…


働くものとして、組織人として、そして何より一人の人間として「人間はだれしも成長しようとする本質を持つ。したがって人は後年の変わろうとする本人の努力により、その人格を変えることができる」「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」の言葉は胸に抱きたい。


すべてのビジネスパーソンに一読をお薦めしたい良書だ。