世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】呉座勇一「陰謀の日本中世史」

今年123冊目読了。国際日本文化研究センター助教の筆者が、中世の有名な陰謀とその原因を述べる説、そして陰謀論の法則を明らかにする一冊。


これは実に興味深い。個別の陰謀に関する読み解きの深さもさることながら、その法則性には唸ってしまう。


そもそも「人が陰謀論を信じるのは、因果関係の単純明快すぎる説明による」「陰謀論に引っ掛からないためにも、何が陰謀で何が陰謀でないかを見極める論理的思考力を身につける必要がある」との指摘は誠に至当。


陰謀研究で留意すべきこととして「加害者と被害者の立場が実際には逆である可能性を探る」「推測を重ねる前に、史料を素直に読む」「陰謀の難点は、秘密裏に遂行しなければならないため、参加者を限定せざるを得ない」「軍記物の制作意図は、そのクライマックスに最も鮮明に表れる」というのは、確かにそうだな。


陰謀論の特徴としては「最終的な勝者が全てを予測してコントロールしていたと考える」「大きな結果をもたらした大事件の原因を考察する際、結果に見合うだけの大きな原因を求めがち」「論理の飛躍、立場の逆転」「事件によって最大の利益を得た者が真犯人である」「起点を遡ることで宿命的な対立を演出する」などとし、疑似科学との類似性として「①反証不可能生②検証への消極的態度③立証責任の転嫁」を挙げる。


具体的史実についての指摘も「王家や摂関家における家督争いは珍しいことではないが、それが武力を伴った点に保元の乱の画期性がある」「後白河の行動を細かく検討してみると、長期的視野に基づく戦略的な思考を見出すことは全然できない。判断が常に場当たり的で、ほとんどが裏目に出ている。にもかかわらず生き残れたのは、単に彼が至尊の地位にいたからにすぎない」「初の武家政権を樹立することになる頼朝には、手本がなかった。彼は常に試行錯誤を迫られたのであり、将来を展望台することは極めて困難だった」「足利尊氏は実力と人気があったから、たまたま将軍になっただけ。北条氏からの離反は一種の自衛行動であり、やむにやまれぬ選択。後醍醐を裏切る形になったものの、尊氏は後醍醐にそむく意思を持っておらず、後醍醐を終生尊敬していた」「義政は義視中継ぎ案で事態を収拾しようと考えていた」「細川氏と山名氏の間には畠山問題以外、深刻な争点はない。応仁の乱の原因は将軍家の御家騒動ではない」「本能寺の変は、光秀が突然訪れた好機を逃さず決起したという突発的な単独犯行。光秀の戦略を根底から覆したのは、秀吉の『理外の理』。このまま手を拱いていては光秀の天下になってしまうと危機感を抱いた秀吉は、一擲乾坤を賭した。確実に成功するという安全で合理的な策を実行すれば勝てるほど、戦国時代は甘くない」「西軍の大坂城占拠と『内府違いの条々』によって、家康は絶体絶命の危機に陥った」など、かなり目から鱗


世の中は、複雑怪奇で、そんなに単純化できない。「勝負というものは、双方が多くの過ちを犯し、より過ちが少ない方が勝利する」という事を肝に銘じ、簡単に結論に飛びつかない姿勢は、歴史検証のみならず、現代を生きるにおいても大事な姿勢だと感じる。歴史好きにお薦めの良書だ。