世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】西成活裕「渋滞学」

今年132冊目読了。理学部と工学部の橋渡しを望む東大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻助教授の筆者が、世の中の様々な「渋滞」の原因と問題解決の糸口を探る一冊。


誰もが嫌いな「渋滞」。それを科学的に読み解き、どうすればよいかを考える、という「ニッチ産業」の第一人者たる筆者の指摘は、なかなか視点が面白い。


車の渋滞について「サグ部という気がつかないほどの坂道で、後続の車のブレーキの程度はより大きくなり、後ろへ連鎖的に増幅されて伝わっていく」流れをわかりやすく説明してくれる。「カーブは運転手には比較的わかりやすく、したがってメタ安定になるような不安定な流れはサグ部ほどは生じにくい」「車間距離40m以下で渋滞は発生する。興味深いのは、この40mというのは、自由走行している車が急ブレーキを踏んでギリギリ止まれる制動距離にほぼ等しいこと。危険を察知できる人間の不思議な能力を感じる」「高速道路で混んできた場合は走行車線を走ったほうがよいが、この結果を皆が知ってそのように振舞ってしまっても意味がない」などは、なるほどなぁと納得したり感心したり。渋滞をこういう形で捉えられることが凄い。


また、群衆についても「状態によって、興味の対象への直接行動には訴えず、むしろ受動的関心から集まっている『会衆』(音楽会や劇場に集まる群衆など)。感情に支配され、抵抗を押しのけつつ敵対する対象に直接暴力的に働きかける『モッブ』(集団テロ、襲撃など)。予期しない突発的な危険に遭遇して、強烈な恐怖から群衆全体が収集しがたい混乱に陥る『パニック』(火事や客船の沈没など)がある」と切り分けつつ「状況の変化で、会衆がモッブ化したり、モッブがパニックに陥ったりすることもある」と指摘。「パニックの場合は、大衆に対して逃避的な行動をとるが、モッブは攻撃的行動を示す」とする。
「人はパニック状態では知性の低下により他人の動きに追従する傾向を示す」「避難時に皆が非常口に殺到すると、アーチアクションが発生して出口でつかえてしまう。この際に競争と譲歩のバランスが重要。そして避難時に何より重要なのがリーダーや指導者の存在」のあたりは、コロナ禍の2021年の日本の群集心理に当てはまるようにも感じる…


アリの渋滞やコンピューターの渋滞のあたりはあまり興味を持てなかったが、全般的には「世の中をこういう視点でも見られるのか」という気づきが楽しい一冊。
その中で、教訓となったのは「わかった、といえる瞬間は、おそらく非常に単純な要素の組み合わせで現象が理解できた時」「例外を知ることは、知識の適用限界を知ることにつながり、実際に知識を実生活に応用する際にはとても大切なのだ。その意味では、ものごとがうまくいっている場合には実は専門家はほとんど必要ない。しかしうまくいかないことが出てきたときに、それを解決できるのが専門家で、その存在は大変重要」のあたり。自分が関わっていない分野の本を読むことって、なかなか気づきが多いなぁ…