世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】森見登美彦「太陽の塔」

今年133冊目読了。言わずと知れたベストセラー作家が、失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、痛快な一冊。


もともと小説は読まないのだが、三谷宏治「戦略読書」で薦められていたので読んでみたが、これは本当に面白い。自身が京都のあたりの土地勘がある事と、モテない学生時代を送ったことから、とにかく(行動面はともかく)感情面については共感しきり。これ、自分が学生時代に読みたかったなぁ…


「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」という超・過信から始まるこの小説の中身はネタバレ回避で書かないが、男子学生の心理が実によく描かれていて、アラフィフのオッサンになった今読んでも、胸がしくしくする。


妙な自己陶酔と、自己批判・矛盾を抱えた主人公の心理描写が素晴らしく、グイグイ引き込まれた。心に残ったのは「良薬とはつねに苦いものである。ただし、苦いからといって良薬であるという保証はどこにもない。毒薬もまた苦いのだ。」「誇りを持たずに行われる行為ほど卑劣なものはない。ひるがえって言えば、誇りさえ確保することができればどんな無意味な行為も崇高なものとなり得る。自己嫌悪や他者の視点に足をとられている行為には、何の価値もないと断言しよう。振り返るな。足元を見るな。ただ顎を上げて営々と前進せよ。」「かまって欲しいと思うときにはかまってくれず、放って置いてほしいときには放って置いてくれないのが世間というものである。」「徹底した自己嫌悪ならともかく、中途半端な自己嫌悪にとらわれている人間ほど、ケチ臭く、はたから見ていて不愉快なものはない。」「我々は『世の中腐ってる』と嘆くのだったが、正直なところ、時には、世の中が腐ってるのか我々が腐ってるのかわからなくなることもあった。ともかく、我々の日常の大半は、そのように豊かで過酷な妄想によって成り立っていた。」のあたり。
こうして読んでみると、自分が18歳のころからたいして成長せずに、似たようなあたりをグルグルしていただけ、ということに気付かされ、けっこう愕然とする。18歳から27年間積み上げても、まだ大差ないとは…


そして、最後の解説で、本上まなみが書いた一言「男子学生って、基本的には根っからイケてないものなのです。」にとどめを刺される(爆)。何にせよ、とんでもなく面白く読めた。これから、森見登美彦、読みふけってみたい。