世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】村上春樹「ノルウェイの森(上下)」

今年134・135冊目読了。超ベストセラー作家の、超ベストセラー長編小説。


学生の頃、筆者が住んでいた学生寮に住んでいた。この小説にも学生寮が出てくるので、確かに読んだ。「この寮の唯一の問題点はその根本的なうさん臭さにあった。寮はあるきわめて右翼的な人物を中心とする正体不明の財団法人によって運営されており、その運営方針は-もちろん僕の目から見ればということだが-かなり奇妙に歪んだものだった」という寮だった(笑)。それにしても、恐ろしいほど中身を忘れていた…悩みつつもなんだかんだでモテている主人公に、非モテ学生としては嫉妬して、感情的に受け付けなかったんだろうな。


人間の哀しい性を感じさせるのは「結局のところ-と僕は思う-文章という不完全な容器に盛ることができるのは不完全な記憶や不完全な想いでしかないのだ」「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友達を作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの」「怖いのは感情が出せなくなったときよ。そうするとね、感情が体の中にたまってだんだん固くなっていくの。いろんな感情が固まって、体の中で死んでいくの。そうなるともう大変ね」「私たちがまともな点は、自分たちがまともじゃないってわかっていることよね」といった記述。


人間の囚われに気づかせてくれるのは「いつも自分を変えよう、向上させようとして、それが上手くいかなくて苛々したり悲しんだりしていたの。とても立派なものや美しいものを持っていたのに、最後まで自分に自信が持てなくて、あれもしなくちゃ、ここも変えなくちゃなんてそんなことばかり考えていたのよ」「私たちの問題点のひとつはその歪みを認めて受け入れることができないというところにあるのだ。人間一人ひとりが歩き方にくせがあるように、感じ方や考え方や物の見方にもくせはあるし、それはなおそうと思っても急ななおるものではないし、無理になおそうとすると他のところがおかしくなってしまう」「自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」など。


あぁ、これは核心を突いているなぁ、と感じるのは「死は生の対極なんかではない。死は僕という存在の中に本来的に既に含まれているのだし、その事実はどれだけ努力しても忘れ去ることのできるものではないのだ」「世の中というのは原理的に不公平なものなんだよ。はじめからそうなってるんだ」「どのような真理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ」のあたり。


救いになる言葉たちは「物事が手に負えないくらい入りくんで絡みあっていても絶望的な気持ちになったり、短気を起こして無理にひっぱったりしちゃ駄目なのよ。時間をかけてやるつもりで、ひとつひとつゆっくりとほぐしていかなきゃいけないのよ。」「何もかもそんなに深刻に考えないようにしなさい。私たちは不完全な世界に住んでいる不完全な人間なのです」のあたり。


(ネタバレ風になるが)ラストがまた強力。「僕は今どこにいるのだ?でもそこがどこなのか僕にはわからなかった。見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ?僕の目にうつるのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿だけだった」は、2021年、アラフィフになってもなお、共感できる。これは凄い名作だ(←今更)。