世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山竹伸二「共感の正体」

今年94冊目読了。評論家にして同志社大学赤ちゃん学研究センター嘱託研究員の筆者が、共感はつながりを生むのか、苦しみをもたらすのか、を読み解く一冊。


かなり筆者が勉強していることはわかるし、丁寧に説明しようとしているのもよくわかる。ただ、それ故に、何となくとっ散らかった感が否めない。もったいないことだ。


共感の素晴らしさについて「共感力を身につけることは、相手を理解し、よりよい人間関係をもたらすだけでなく、社会的な成功にもつながっており、共感の欠如は孤立と挫折に直結している」と肯定。
社会的背景から「現在では価値観が多様化し、自分の行為や趣味を測る価値基準が見えないため、どのように行動すれば認められるのか、きわめて不透明になっている」「今日において、かつてないほど共感の重要性が高まっているのは、こうした社会全体に蔓延する承認不安にも原因がある。それが産業構造の変化にともなうコミュニケーション重視と重なり、より一層、共感の重要性がクローズアップされるようになった」と、より共感が求められることを強調する。


他方、共感の負の側面として「相手の気持ちがわかるがゆえに、相手の苦しみに反応して疲れ果てたり、相手の意見を尊重せざるを得なくなる。相手の気持ちを忖度し、同調した挙げ句、自由を見失ってしまう」を指摘する。


そのうえで、「共感は人間にとって、利他的行為、道徳性の動機となる、とても大事な現象」という共感の原理については「①共感が生じる経験は『情動的共感』と『認知的共感』に分けられる②共感の質は心の発達、特に自己の確立と認知の発達にともなって変化する③他者の共感によって得られる自己了解と『存在の承認』④心理的距離、空間的距離の近い人ほど共感が生じやすい⑤共感力には個人差がある⑥共感は感情の共有であり、自己了解と同時に他者了解が生じている⑦共感は他者理解をとおして他者のためになる行動(利他的行為)を生む⑧共感は喜びだけでなく、苦しみを生む場合もある⑨共感はお互いを理解し、協力し合う基盤となり、文化・社会を形成する」と細かく分析する。


では、どうすればよいのか。「自己了解は自分の感情に気づくこと、本当の気持ちを自覚することであり、自分がどうしたいかがわかれば、納得のいく行動を選択し、自由に生きることができる」「共感のリスクを回避するには、自己了解ができていること、感情の制御ができることが必要になる。過度に相手の感情に巻き込まれたりしないし、相手と自分を同一視したりもしない。また、多様性に寛容で、他者との差異や他者性を認められる人は、排他的にもなりにくい」と主張する。


筆者は「私たちはそれぞれ経験も感受性も違うし、思考、想像力、推論の力も異なっている。文化や価値観、立場、状況も違うかもしれない。その差異を自覚した上で共通するものを見出せれば、大きく対応を誤ることなく、共に喜び、共に慰め合うことができる」と述べるが、結局、共感の正体が何なのかはモヤモヤしたままで、どうにも消化不良感が否めない。


感情に気づくには感情観察しかなく(cf.佐渡島庸平『感情は、すぐに脳をジャックする』)、そこは大いに共感するのだが、正直、読みづらさがひどく、佐渡島庸平の本を読んだ方が実践的。あまりお薦めはしないなぁ。