世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】スティーヴン・ハッサン「マインド・コントロールの恐怖」

今年93冊目読了。アメリカ人ながら19歳で統一教会に入り、27か月メンバーとして活動し、その後脱会した筆者が、マインドコントロールの構造とその逃れ方を伝える一冊。


2022年に問題となっている統一教会。そこにハマった当事者である筆者(たぶん相当に頭がいい)の筆致で、生々しくその恐怖と対策を知ることができる。


破壊的カルトについて「表向きの目的によらず、自己の目的追求のためにあからさまな欺瞞を行うグループ」「非倫理的なマインドコントロールのテクニックを悪用して、そのメンバーの諸権利を犯し傷つけるグループ」「カルトの教義は、煎じ詰めれば、『我々』対『彼ら』のふたつの基本的な対極に還元してしまうもの」「メンバーたちのエリート心理こそ、彼らに自己犠牲と重労働を続けさせる強い情緒的接着剤」「個性は悪である。順応が善である」「オーバーワークで睡眠不足にさせる」と、その特徴を挙げる。


マインド・コントロールについては「個人の人格を破壊してそれを新しい人格と置き換えてしまうような影響力の体系」「マインド・コントロールを使うのは、宗教カルト、政治カルト、心理療法・教育カルト(自己開発セミナーなど)、商業カルト(ネズミ講式販売組織)」「勧誘するのは、信仰型(人生の霊的意味をたずねる人々)ではなく、感情型(愛と思いやりに反応)か行動型(挑戦を好む)がほとんどだった。思索型(知的アプローチを好む)の多くは、やがて組織内部でリーダーになっていった」「①環境コントロール②密かな操作③純粋性の要求④告白の儀式⑤聖なる化学⑥特殊用語の詰め込み⑦教義の優先⑧存在権の配分」「コントロールするのは、行動、思想、感情、情報。行動を支配できれば、感情と精神はそれについてくる」と、緻密に分析。


統一教会についての「文鮮明が新しいメシアであり、彼の使命は新しい『地上天国』を打ちたてること」「文鮮明機関のすべての活動を貫く糸は、文の強い反共的立場。アメリカその他の国々が共産主義とたたかわない分だけ、これらの国は弱体化し、そして滅びる。世界のただ一つの救いは文鮮明にあり、また世俗的民主主義にかわる神政政治の統治体系を樹立することになる」「我々以外の人間は、みなサタンに支配されている」という考え方が日本の与党とベッタリというのがあまりにも絶望的だ。


カルトの勧誘は「①メンバーの友人や身内②初めての人(多くは異性)が親しげに近づく③カルトが主宰するイベント」であり、「人生の中でストレスを感じる傷つきやすい時期に誘いを受けている」としたうえで、「反復、単調、リズム-これらは人をあやす効果のある催眠の律動」「自分の信念を他人へ売り込む努力ほど、その人の信念を固めるものはない」と取り込んでいくのも怖ろしいことだ。


カルトに引っかかる素地として「思考停止は、現実を吟味する人間の能力を妨げるいちばん直接の方法」「娯楽と情報をテレビに頼ることも、カルトのメンバーの素地を作る一要素。残念ながら、テレビ鑑賞の大部分は、私たちの知性や創造力や高尚な願望を刺激してはくれない。かえって迎合性を助長し、ゆがんだ現実認識をつくりだす」ということを挙げるのも納得。今ならYouTubeなんかもここに入るんだろうな。


カルトに対抗するには「私たちはみな弱いのだという認識がもっとも重要」「人間の焦点は『いま・ここ』にある。過去に行われたことは過ぎたことである」と、そのポイントを明示。
また、友人や家族などを守るには「突然で、その人らしくない変化だったら徹底的に調べる」「もし心配なら、できるだけおおぜい、本人の友人や親族と相談する」「無批判な信仰を解きほぐすコツは、新しい視点を導入すること」とするのも、本人が体験しているだけに切実だ。


余談だが、「カルトとは、本来は単に礼拝とか儀礼の意味だが、既成宗教の外に起こる新しい宗教を、伝統宗教の側が『邪教』と見なしてそう呼ぶ」「オカルトとは、もともと隠されたことという意味で、ふつうの常識や科学ではわからない現象やその奥にある力をきわめようとする術、またはその集団のこと」とまできっちり分類しているのはなるほどと感じた。


分厚い本だが、読み応え十分。ただ、和訳が悪く、タイポがそこここにあるのはイラっと来る。それを措いても、読む価値がある。