世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】秋田麻早子「絵を見る技術」

今年92冊目読了。美術史研究家の筆者が、名画の構造を読み解くことを提唱する一冊。


一時的に美術に興味を持ったことがあったので読んでみたが、なるほど、名画を見る時にこういった視点はなかったな…


そもそもの絵画の見方について「無目的に見てはいけない。常に問いを立てながら見る。問いが見るための枠組みの役割を果たす」と問題提起。「絵の見方を知っているとは、表面的な印象だけでなく、線・形・色などの造形の見るべきポイントを押さえ、その配置や構造を見ている、ということ」「よく観察できないと、知識が活かせない」など、知識と観察の重要性を述べる。
筆者の「他者との交流のため、より緻密な観察のため。言葉にしようとすることで、より能動的に見る契機になり、また、何をどう見ているかを客観視できるようになる」という言語化の大事さを述べる部分については全く同意できる。


光の使い方「光っているところ、より正確には、明暗の差が激しいところに、人の目は無意識に引きつけられる」「後光は集中線。線を一点に集めることで、重要さを表す」は、言われればそうだな。実例があるので非常にわかりやすい。


そのほか、ポイントとして「拮抗する二つのものは、多くの場合、対になる概念を表す」「形と意味は切り離せない」「名画は『角』を避けている。人間の目はエッジをしっかり検出するようにできているので、ついついエッジである辺や角を見てしまうから」「名画は視線誘導の細かな工夫をしている」と実例で紐解きながら解説する。こういった見方は、知らなかった。


構造線についても、その特性を述べる。「縦:堂々とした、毅然とした。横:穏やかな。斜め:ドラマティック、不安定、緊張感。放物線:優美な、優雅な。円:超然とした。縦+横:厳格な、厳粛な、古典的な。S字:有機的」「斜線が右上がりだと元気な印象、右下がりだと不安な印象」は意識したことがなかった。


色についても「青は、絵具が高価だったので金と並んで高級。そのほかは布をきれいに染めるのが難しかった赤、白、黒が高級なイメージ」「色には種類を表す『色相』、鮮やかさを表す『彩度』、明るさを表す『明度』の側面がある」「赤、青、黄の三原色の配色はうまくいく」「補色は目が要求する色。青:橙、赤:緑、青:紫など」などは、名画のみならず参考になる。


さらに法則として「西洋では右の方が序列が上。絵を見る側から言うと左側が偉い」「肖像画の場合、目が中心線か対角線の上に置いてあることが多い」「簡潔な表現ほど、それまでの修練が試され、鍛え上げられた瞬発力と決断力を必要とする」「荒々しい筆致による仕上げは、少し離れたところから見て効果がある。きめ細かい仕上げのものは、近寄って滑らかさを確認したい」のあたり、絵画鑑賞の際に意識したい。


筆者が主張する「名画の中には、調和やリズムを生むため、構造が隠れていることもある」「好き嫌いを感じることと、造形が成功しているかどうかを理解することは別」のあたりは、ぜひ留意したい。美術に興味はあるけど…という自分のような初心者にはもってこいの一冊だ。