世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】仲町啓子「もっと知りたい尾形光琳」

今年106冊目読了。実践女子大学教授(日本美術史専攻)の筆者が、アート・ビギナーズ・コレクションシリーズとして天才芸術家にして琳派の中心人物である尾形光琳についてまとめた一冊。


「日本美術史の流派名は狩野派などのように名字で表すものが多く、その派に属している一人の画家の名前(しかも通称)の一部をとってつけられたものは、ほかに例をみない。画系と家系が重なることの多い狩野派の場合と異なって、琳派は江戸時代を通じて、地域も時代も、さらには社会的身分も異なった人たちによって、時を超えて受け継がれていった。いわば緩やかなつながりだけれども、造形的にははっきりとした意志を持って、多くの人が継承していった流れなのである」と筆者が述べているとおり、極めて異色の画家、尾形光琳。その凄さを、豊富な写真で満喫できる。


光琳はたんに盲目的に写すだけでなく、常に自分の興味や関心をそこに投影しつつ写しかつ描いていた」という光琳。その独特で深みのある味わいは、やはり彼の人生が投影されているのだろう。
光琳の新しいビジネス戦略である江戸での大名仕えへの疲労感を訴える手紙にみるように、光琳に屈折した人生観を頂けることとなり、絵画表現にも影を落としてくる。晩年の傑作《紅白梅図屏風》は緊密な構成のもと、花をつけた若枝のみずみずしさ・可憐さが表現されながらも、どこか深淵をのぞき込むような不可思議な暗さを湛えている。そこには光琳の複雑な心境が表されているかのようでもある」という指摘を見るに、やはり、作家の人生を知ることが、その作品を語るにおいては大事なんだなぁと感じる。


学べば学ぶほど深みにはまるような美術の世界。筆者の「ひとつのモチーフから生み出されるさまざまなイメージ。そこに美術作品鑑賞の楽しさがある」という記述は、知る人でないと見えない世界、ということなのだろう。このシリーズ、本当に侮れない。