世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】千田嘉博「歴史を読み解く城歩き」

今年6冊目読了。城郭考古学者にして奈良大学文学部文化財学科教授の筆者が、城歩きをし、城と対話することで歴史の真実に迫ることを薦める一冊。


どういう風の吹き回しか、子どもたちが城好きになり、流れで城郭検定二級を取得した者としては、非常に興味深く読めた。


城歩きについて、筆者は「江戸時代の城のように構造がわかりやすくはなく、またひとつひとつ自然地形を活かしてつくり、かたちが異なったのだから、中世の城歩きは楽しい。現地を訪ねてどのような城だったかを読み解けば、城が分かるだけでなく、その城を築いた武将も見えてくる」「攻める気持ち、あるいは守る気持ちで城を歩くことがおすすめである」と、その楽しみ方のポイントを挙げる。


筆者は日本だけにとどまらない。世界的に見て「『算木積み』『屏風折れ』、トロイ戦争でもすでにあった」「大砲が戦いの主力兵器になって、ヨーロッパでは城が備えた軍事・政治・生活の三機能のうち、軍事は要塞に、政治と居住は宮殿にとそれぞれ分かれて発達した。日本では1614年の大坂冬の陣で大砲を用いたので、もう少し戦国の戦いが続いていたら日本の城もヨーロッパと同じような発達をたどったに違いない」という視点は非常に興味深い。また、日本においても「沖縄のグスクは、地形に合わせて高い城壁をめぐらした点は東アジアの城と共通したが、城壁と内部の郭は基本的にセットにした。これは九州以東の大和風の城とグスクの共通点であった。つまり、グスクは東アジアと大和の城の長所を融合した構造をもち、北海道などのアイヌの人々が築いたチャシとともに、日本の城の多様性を物語る」と、その多様性を指摘する。


非常に様々な城を取り上げられていて圧巻なのだが、その全ては列挙したらきりがない。一番の有名どころ「安土城天主以前は、御殿系建築に属した天主と、軍事系建物に属した高層櫓の両方がそれぞれ畿内の城郭で成立していた。そして、織田信長安土城天主とは、御殿系建築として畿内に先行してあった室礼を整えた座敷をもった天主と、軍事系建築としての畿内に先行してあった瓦葺きの大櫓を融合し、規模を圧倒的に拡大した上で、階層的な城郭構造の頂点にそれを置いて、政治と軍事を統合した信長政権の権威の象徴として創出した新たな『天主』であった」は面白かった。


城郭考古学について、筆者は「本丸や二の丸などの配置や、堀・石垣は少しずつ政治と社会を反映して変わっていった。そうした城の違いから歴史を考えるのが城郭考古学」「考古学では人が住んだり、戦ったりした場所を発掘する。だからリアリティーに満ちた状況をつかんでいると考えがち。しかし落城した城の戦死者や武器・武具のように、持ち出されて激戦の痕跡が消えてしまう遺構の残り方もあることに、もっと留意すべき」「城の時代を考えるのに城郭考古学からの視点はたいへん有効。文字史料だけによらずに真実を究明するアプローチは、きっとすべての時代にある」と述べる。やや我田引水の感はあるが、納得性は高い。


そして、様々な歴史事象に絡めて普遍的なことについても述べる。「得意なことに磨きをかけて、さらにできるようになれば、まず毎日が楽しい。まわりの人の見る眼が変わって評価が伴えば、自信が芽生える。努力を重ねて突出した得意を持てば、おのずから道は開ける」「昔のやり方で成果を出した成功体験があるから、組織は変われなくなる。成功して、なお高みを目指して変わる挑戦は難しい。しかし人や組織をとりまく環境は刻々と変化する。昨日の正解が、明日の正解であるとは限らない」「絶体絶命のピンチにどうふるまうか。論争の相手を徹底的に論破するディベートの達人がかっこいいというが、正義の反対はもうひとつの正義であったりする。やはり、いまも負け方、勝ち方があるのではないか。情報の背景や今後の展開を適確に理解して、私たちははじめて正しい判断と行動ができる」のあたりは、筆者の高い知見がもたらしたもの、と言えるだろう。新書ながら分厚く、そして読み応えがあった。でも、城好きじゃないと読みこなせないかな・・・