世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊東潤「城を攻める 城を守る」

今年7冊目読了。歴史小説家である筆者が、小説ではなく事実に依拠して城の魅力をさまざまな戦いから描き出す一冊。


筆者の小説「利休」が面白いことと、城好きなので読んでみたが、さすがの面白さ。


城の魅力について、筆者は「なぜ、ここに堀切や竪堀を入れているのか、また、土塁や馬出を築く必要があったのか。そうした築城者の意図が、遺構を見るだけで伝わってくる。つまり遺構を通して、数百年前の人間と対話できるところが魅力」「城とは、美しいばかりが能ではない。その優美な姿勢の陰に隠された毒牙があってこそ、美しさが際立つ」「いずれの城にも、必死に戦い、死んでいった男たちの痕跡が刻まれている」と述べる。


戦いというものについての原則論「いつの時代も軍事同盟というのは、なかなか機能しないものである。当初は共通の目的を持っていても、いざ共同作戦となると、利害が対立したり、疑心暗鬼が生じるからである。一方、共通の目的と利害が維持できれば、ほかに問題があっても、同盟は機能する」「戦争とは、味方の被害を最小限にとどめつつ、敵を撃破ないしは屈服させるものである」「国衆の名手的立場の戦国大名は、常はリスクを回避し、兵力の損耗を避ける傾向であるが、勝負所では『無二の一戦』も辞さない」「巨大勢力同士の大合戦というものは、前哨戦や緒戦の結果いかんで流れが決まることが多い。すなわち、最初の接触で勝敗の帰趨が決まってしまい、その後の戦いは付け足しにすぎなくなる」のあたりは、いろいろな戦を見るときの参考になりそうだ。


信長や毛利元就から「逆境に強いタイプに共通している人格的特長は、不屈の闘志、カリスマ的リーダーシップ、積極性、決断力、行動力、そして機を見るに敏な狡猾さである。そのいずれかが欠けても、奇襲戦の成功は覚束ない」という分析をしたり、名将について「合戦において、目標が達成されれば『勝ちきる』必要はなく、かつ、勝ちきろうとすることによって生じる味方の損害を抑えることが、将には必要。ところが、そんなことに頓着せず、いったん勝機をつかめば、徹底的に勝ちきることを目指した武将がいる。織田信長である」「謙信の動きは一見して朝令暮改で、一貫した方針が欠如しているように思えるが、実は『即応力』が真骨頂。直感だけに頼っていたわけではなく、相次ぐ情報により『こうした方がよい』と思った瞬間、謙信は即断する」と掘り下げるあたりは興味深い。
合戦についても諸々面白いのだが「桶狭間合戦は、野戦で勝負がついたことから、城郭攻防戦という要素が薄いと考えられがちだが、実際は、城や砦をめぐる高度な駆け引きの末に、野戦となった」は気づかなかった視点。


それ以外にも、人生訓、社会訓として「挫折や失敗は誰でもする。これらを、いちいち気にしていてはきりがない。大事なことは、そこから学び、同じような挫折や失敗を繰り返さないことである。ところが優秀な人間ほど、挫折や失敗から学ぼうとせず『運が悪かった』などと自分に言い聞かせつつ、それらを忘れようとする。挫折や失敗を自責で考えることは、自己否定に繋がるので、プライドが許さないのだ」「いつの世も同じだが『己を知る』ことほど難しいことはない。その反面、己を知れば怖いものはなくなる」「勝者は常に賢く、弱者は常に愚か。歴史というものを結果から見ようとすれば、常にそうなる。しかし敗者は常に愚かだろうか」のあたりは頷くしかない。流石の筆致。


余談ながら、自民党の派閥パーティー券問題が浮上している2024年においては「人が集まれば派閥ができる。とくに日本人は、早くから農耕を基盤とした社会の仕組みが整っていたため、徒党を組むのが好きな民族である」の言葉がなんとも重い…